彼だ。彼が一番乗りだった。いいえ、「彼ら」が。ドアを開けた私は、たっぷり2秒間、頭をフル回転させた。〈えっと、このきれいな女の人は誰? そうか、エレベーターの中で一緒になったのね。それで、まちがえてついてきちゃったんだわ……〉けれども二人はそろって私にほほ笑みかけた。そして彼はワインを、彼女は握手のために手を差し出した。

ドミニクは褐色の髪の美女で、生まれたのは私が15歳のとき。ニースで麻酔医として働いているという。3分間でこれだけ聞いた私はすっかり落ち込んだ。いくら美しくても、中身がおばかさんだったらこれほどつらくはなかった。そうでなくても、せめてニース訛りがひどいとか……。でも、ドミニクは素晴らしかった。

こわばった顔に笑顔をビスで打ち付けて(もはや痛みも感じない)、私はひたすら飲み続けた。若い娘を選ぶのは彼の権利よ、と自分に言い聞かせる。初恋の相手ってわけじゃないし、男はほかにもいるわ……。でも、その晩、ずっと二人が踊る姿を見ながら、弱々しくほほ笑んで、「これじゃあ勝負にならないわ」と結論づけたのも私の権利。優しい気持ちになるのは難しかった。彼女って、ちょっと野暮ったくない? それに、香水が強すぎるし、日焼けしすぎているし、たばこの臭いを巻き散らしながら歩いてるわ……。

でも、これって嫉妬しているだけ?

男友だちがやってきて、耳もとでささやいた。

「彼、かかりつけの麻酔医に眠らされちゃってるな」

うまいせりふだろ、と言いたげな顔つきに、私は憤然(ふんぜん)と言い返した。

「彼女のどこが私より勝ってるっていうの?」

「そんなところはないよ。年だって、15歳負けているしね」

私は荒れた。でも、状況は明らか。そして悟ったのは、物事は早く進むか、それともまったく起こらないかのどちらかだということ。