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なぜ人には「好き嫌い」があるのか

もしあなたの周りから「嫌いな人」がいなくなったとしたら、人間関係がどれだけ楽になるでしょう。
ある調査によると、「嫌いな人がいるか?」という質問に、73%が「いる」と答えました。

職場、学校、趣味サークル、PTA、町内会。人がたくさん集まる場に参加したときに、そのメンバーの中に「好きな人」もいれば「嫌いな人」もいるのが普通です。全員を「好き」ということもありえないし、また全員を「嫌い」ということもないでしょう

人と初めて会ったとき、「この人、好き」「この人、嫌い」「この人、ちょっと苦手」と、まず相手の好き嫌いを瞬時に感じてしまうことはありませんか。

なぜ、私たちは、「好き嫌い」を判断してしまうのでしょうか。それは「好き嫌い」を、無意識に判断してしまう、脳の仕組みがあるからです。

脳には扁桃体と呼ばれる部分があります。これは、危険を察知して赤信号を出す部分です。何か出来事が起こったときに、マルかバツか、安全なのか危険なのか、ということを瞬時に判断します。危険な場合は脳の中で赤信号を出します。

たとえば、動物が自分の敵と遭遇した場合、瞬時に対応を取れるように信号を出します。脳と体全体に警戒信号を送り、身を守る準備をさせる司令塔が扁桃体です。

扁桃体はさまざまなものについて、瞬時に安全か危険かを判断しています。たとえば、林を歩いて、足下にヘビがいるのに気づきました。「わっ! ヘビだ」と叫ぶ前に、体がヘビを踏まないように避けているはずです。これは、扁桃体が「ヘビ=危険」という警報を出したために、一瞬で体が動いたのです。

扁桃体は、0.02秒という一瞬の速さで「安全 or 危険」を判断すると言われています。「じっくり考える」のではなく、瞬間的に、ほとんど条件反射的に「安全 or 危険」「好き or 嫌い」を判定しているのです。

ですから、人と会ったときに、自分に対して好ましい人なのか、あるいは嫌な人なのか、これまた瞬間的に扁桃体が判断します。

ようするに、「好き嫌い」のレッテルを脳が勝手に貼るわけです

その人の過去の経験から苦手な人の見た目や表情など、さまざまな特徴をとらえて、「嫌い」を判断します。

いったん、「嫌い」と判断してしまうと、今度は嫌いという偏見で相手を見てしまうので、余計にその相手の悪いところを探してしまって、さらに嫌いになってしまいます。嫌いな点がたくさん見えてきて、「本当に嫌い」になってしまうのです。

脳が「嫌いな人」を生み出す驚きのワケPhoto: Adobe Stock

あなたの「嫌い」は見抜かれている

人間のコミュニケーションには、「言語的コミュニケーション」と「非言語的コミュニケーション」があります。言語と非言語とで、相異なるメッセージが発せられたとき、相手は非言語的メッセージを優先して受け取る傾向があることが、心理学の実験からわかっています。

つまり、あなたの嫌いな上司に「いつも、ご指導ありがとうございます」とヨイショしたところで、あなたの雰囲気や態度から、あなたの「嫌い」はまんまと見抜かれている、ということです。

人間は、好意に対して好意を返します。しかし、その逆も真なり。人間は、悪意に対して悪意を返す傾向があります。

「嫌い」という感情に対しては「嫌い」という感情を返します。つまり、あなたが上司を「嫌い」と思えば思うほど、上司は非言語的なサインを無意識に察知し、あなたに対する態度をより冷たい、あるいは厳しいものにしていくのです。

あなたが上司を嫌うほど、上司はあなたに厳しくなり、あなたへの風当たりも厳しくなってきます。それでは、仕事は楽しくないし、モチベーションも上がりません。あなたは、さらに上司が嫌いになり、上司もあなたを嫌いになり、人間関係は悪化して深刻な状態へと進行します。

「嫌い」の連鎖で、最悪の人間関係ができあがる。それが、うまくいかない人間関係の正体なのです。

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。
最新刊は『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)。シリーズ70万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、16万部『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、10万部『神・時間術』(大和書房)など、30冊以上の著書がある。

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