「(1)に関しては、うちわは会社の所有物なので、私物化したことにより窃盗罪に当たります。ただし、警察に被害届を出すか否かは会社で判断してください」

「わかりました」

「(2)に関しては、D社長が入札したときに個人で支払った代金はAさんに返還してもらうことができます。また、(3)で違約金等が発生した場合は損害賠償として会社がAさんに請求することができます」

「ところで、(3)はどんな意味ですか?」

「これは甲社とC子さんが所属する芸能事務所との契約問題です。 ノベルティーでC子さんの肖像を使用する場合、芸能事務所に使用許可を得ていると思いますが、その許可の内容が『あくまでもノベルティーとしての利用のみで販売は禁止』なのか『販売可能』なのか確認する必要があります。販売禁止の商品(『転売禁止』等)を販売した場合、契約違反となり違約金等の問題が発生する可能性があります」

 B総務課長は大きくうなずいた。そして、

「今回の件で、Aは懲戒処分の対象に当たると思いますが、D社長の発言通りいきなりクビにできるものでしょうか?」と質問した。

「いきなりは無理です。事実を踏まえ、懲罰委員会で話し合って決めることになります」
「わかりました」

会社が下したAの処遇
まさかのうちわとの再会

<会社の対応策>
(1)Aを窃盗罪として刑事告訴するか否か決めること。
(2)(1)とは別に、Aの処遇については、会社の就業規則を確認した上で懲罰委員会を開き、Aの弁明も加味して懲戒処分にするか否か、また懲戒処分にした場合、その処分内容を決定すること。
(3)Aがうちわを出品したことにより得た利益、およびD社長がAに対して支払った入札代金の請求についてどうするかを社内で検討後、Aに提示の上文書を交わすこと。
(4)C子の所属事務所への説明が必要な場合は対処すること。

 E社労士との面談終了後、B総務課長はうちわに関する権利について芸能事務所との契約内容を確認したところ、「転売禁止」の項目が盛り込まれていた。

 その報告を受けたD社長は翌日、芸能事務所に事情を説明、謝罪した。事務所側は甲社が意図して販売したわけではないこと、転売された数が少数であること、大量にうちわが出品された時点でD社長が全部落札する処置を取った等を考慮して、違約金等ペナルティーはなしとなった。

 Aの処遇については、懲罰委員会で検討した結果、刑事告訴はしないことになった。

 また、本来就業規則によれば懲戒解雇でもおかしくないのだが、弁明においてAが深く反省していること、さらにネットオークションで得た利益とD社長が落札した金額を即刻全額返金することを申し出たため、7月末日付の自己都合退職扱いとなった。

 1週間後、D社長は所用で乙社を訪問した。要件を終えた後、乙社長は机の引き出しを開けた。

 「最近ネットオークションでC子ちゃんのお宝を見つけたんだよ」

 と言いながらD社長の前に差し出したのは、Aが出品したC子のうちわだった。

 「この写真かわいいから、思わず10個全部買い占めちゃった。わはは…」

 うちわには甲社名とロゴマークが入っていたが、美観を損なわないよう隅に小さく挿入していたため、乙社長はまさか甲社のノベルティーだとは気づいていないようだった。

 すっかりご機嫌な乙社長の様子を見ながら苦笑したD社長だった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。