単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるかーー。これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか? それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。

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「メッセンジャー・ボーイ」に
堕してはいけない

 参謀には意思決定権限はありません。

 あくまでも、意思決定者である上司をサポートするのが参謀の役割。参謀の提言によって、意思決定に影響を及ぼすことはありえますが、その場合であっても、意思決定の主体は上司。参謀は「自らの意思」によって、何かを決定することはできないのです。

 そして、参謀は、上司の「意思」を実現するべく、社内外とコミュニケーションを取る役割を担います。ここに、重要なポイントがあります。参謀は、上司とビジョンを共有し(連載第16回参照)、「脳」を同期させる必要がある(連載第4回参照)とはいえ、上司とは「別人格」の存在であることには変わりがなく、その点にこそ参謀の価値があります。ところが、参謀は「意思決定」の主体ではないために、ややもすると、上司の「意思」を伝達する“メッセンジャー・ボーイ”に終始してしまう恐れがあるのです。しかし、それでは参謀は務まりません。

 私自身、その間違いを指摘されたことがあります。

 いまとなっては笑い話ですが、社長秘書になって日の浅いころに、こんなことがありました。

 ある日、呼び出しを受けて副社長のところに伺うと、ある案件で社長がくだした意思決定について、異論がある旨を社長に伝言してほしいとのことでした。私は、社長の意思決定について深く理解していましたから、副社長の指摘にはいくつもの疑問をもちました。しかし、相手は副社長。生意気なことは言えません。そこで、副社長の伝言を持ち帰って、そのまま社長に伝えたのです。

荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。