さらに8月18日、米海軍のミサイル駆逐艦マスティンが台湾海峡を通過したとき、海峡の中間線より中国側を航行し、中国海軍の駆逐艦の追尾を受けた。

 米国は人的交流も活発化している。米アレックス・アザー厚生長官が8月9日から台湾を訪問し、3日間も滞在した。79年の米国と台湾が断交して以来、訪台した米高官として最高位である。中国の戦闘機「殲11」と「殲10」が10日午前9時ごろ、一時的に台湾海峡の中間線を超えて飛行し、中国側の怒りをあらわにした。台湾側の主張によれば、中国軍機が台湾海峡の中間線を越えたのは2016年以降で3回目だという。

 こうした動きを見て、台湾海峡における米中間の偶発的な軍事衝突、「擦槍走火」を心配する声も上がっている。「擦槍走火」とは、本来の意味においては、銃器を拭う時に不注意で銃が暴発してしまうことを言うが、ここでは、本意による軍事衝突ではないが、ちょっとしたすれ違いで深刻な軍事衝突になってしまうことを意味する。

 台湾海峡で米中間の示威行動が繰り返されている中、8月25日、中国人民解放軍北部戦区が実弾演習向けに設定した飛行禁止区域を、米軍のU2偵察機が強硬に飛行した。

 中国人民解放軍の演習活動を偵察するための軍事行動ではあるが、なぜ米軍側は無人機ではなく、中国に何度も撃墜されたことのあるU2偵察機をわざわざ飛ばしたのかという議論が中国国内で活発に交わされていた。中には、撃墜されることを期待した偵察飛行ではないかという屈折した見方も出ている。

米国のベトナム戦争参戦の
きっかけとなったトンキン湾事件

 今年は米大統領選の年である。人気が低迷するトランプ米大統領が中国との局地的軍事衝突を起こして、米国国内の支持率を高めようと計算している可能性がある、と指摘する声も大きくなっている。米中間に、計算された「擦槍走火」が起きる危険性があると指摘する識者が相当数いるのだ。その中で特に、朱建栄・東洋大学教授が発した警告には耳を傾けるべきだと思う。

 まず、朱教授は、米大統領選が終わるまでの数十日の間に、米国が「非常手段」を講じるかもしれないと指摘している。「非常手段」とは、56年前に起きた「北部湾事件」が連想できるという。北部湾事件は日本では「トンキン湾事件」と呼ばれる。

 朱教授は次のように解説する。

「1964年は、2020年と同じく米大統領選の年である。前年末にケネディ大統領が暗殺され、ジョンソン副大統領がその後任となったが、知名度は低く、人気や新聞各紙に報道された支持率も競争相手に遠く及ばなかった。そこへ同年8月に、誰もが予想していなかった、世界を驚かせた北部湾事件が発生した。その結果、ジョンソン氏が3カ月後の大統領選で劇的な大逆転勝利を収めた。今日から見れば、中国現代史の流れもこの事件によって逆転させられたと見ていいかもしれない」

 64年8月1日、米海軍駆逐艦マドックス号が海洋の調査任務を遂行すると宣言して北ベトナム領海に侵入した。8月2日、マドックスは海岸から30カイリの国際水域で北ベトナムの魚雷艇に攻撃されたと主張。さらに4日には、増援された別の駆逐艦も攻撃を受けたと報告した。24時間も経たない8月5日には、米国は大量の軍機を出動させて北ベトナムを猛烈に爆撃。国防総省のマクナマラ長官は同日夜、ベトナムへの増兵を含む計画を発表し、ベトナムとの全面戦争へと踏み切った。