人々が誤った情報を信じても、それが真実となる

 問題は、市場の噂が誤りであっても関係ない、ということだ。上記の例でいえば、実は候補者Cは賄賂を配っていなかったとしても、審査員たちが噂を信じてCに投票すればCが優勝するので、噂を信じた審査員が得をするのである。

 Cの親友で、Cが賄賂を配っていないことを知っている審査員も、他の審査員が誤った噂を信じていることを知っている以上、Cが勝つと考えてCに投票すべきなのである。

「人の噂も七十五日」であるから、75日以上保有する予定で長期投資をする場合には、人々の噂を追うよりも真実を知ってそれを利用すべきである。つまり、将来の収益予想等々に注力すべきなのである。

 それならば筆者は長期投資をすればよく、その際には噂より真実(企業の稼ぐ力等々)を見抜けばよいのだ。仮に筆者の長期投資ももうかっていないとすれば、それは分析力が足りないからだ(笑)。

黒田緩和で株価が上がったのは美人投票

 黒田日銀総裁は就任にあたり「大胆に金融緩和をするので、世の中に資金が出回り、株価は上がるだろう」という記者会見を堂々と行った。そこで投資家たちは株価が上がると考えて株の買い注文を出し、それによって実際に株価は上昇した。

 しかし、元銀行員である筆者は、金融を緩和しても資金が世の中に出回らないことを知っていた。銀行が国債を保有しているのは、貸出先が無いからであって、日銀が銀行の金庫から国債を持ち帰って、代わりに札束を置いて帰ったとしても、銀行がそれを貸し出しに使えるわけではない。

 つまり、銀行は札束を日銀に送り返して準備預金にするしかないので、資金は世の中には出回らないのだ。したがって、株価が上がるという理屈も成り立たないのだ。

 もっとも、実際には株価は大幅に上昇した。それは人々が、株価が上がると信じて株の買い注文を出したからである。まさに美人投票そのものである。人々が信じたことが正しいか否かは問題ではないのだ。

 ちなみに筆者は、世の中に資金が出回らないことを知っていたので、株価が上がるという理屈が正しくないことを知っていた。しかしそれでも株を買った。それは、「人々が誤った情報を信じて株を買うならば株価は上がるだろう。それなら、自分も買っておけばもうけることができる」と考えたからである。

 上記のCの親友がCに投票したのと同じ理屈である。おかげで、何度も飲みに行くことができた。「黒田総裁、ありがとう」と言いながら乾杯をしたわけだ(笑)。