敵基地攻撃力整備には10年必要
ミサイル防衛の代替にはならない

――敵基地攻撃能力は必要がないということでしょうか。

 少なくとも、ミサイル防衛能力の代替にはならないということだ。

 敵地攻撃能力を持つといっても10年はかかる。自衛隊は日本の領域内に侵入してくる敵勢力を追い払うための能力しかないから、敵地を攻撃するとなると、防衛戦略や装備体系、訓練なども根本から見直す必要がある。

 現時点で最も実現可能性の高い方法は、トマホーク(巡航ミサイル)を米国から購入することだが、それでも、敵基地や移動式の発射台の位置、ミサイル発射の情報などが米国から入らなければ攻撃はできない。

 それにトマホークはスピードが遅いので、途中で迎撃される可能性がある。それを計算して攻撃には何発が必要なのかということも、自衛隊にノウハウはない。そもそも米国はトマホークを英国にしか売っておらず、日本に供与してもらう交渉から始めないといけない。

 これまで敵基地攻撃は日米同盟の役割分担として米国に任せてきた。それを一部であっても日本が持つというなら、米国との役割分担を大きく変えないといけない。

 例えば米軍が中東や欧州に兵力を取られて余裕がないという時に、日本も「矛」、つまり一定程度の攻撃力を持つというのなら、米国との戦略設計をやり直す必要があるし、米軍と連携できるようにあらゆる装備体系を調整しないといけない。

 結局、時間がかかるから、仮に敵基地攻撃能力を持つ決断をしたとしても、ミサイル防衛の性能向上やシェルター整備の必要性は変わらない。

安倍首相の“政治遺産作り”
だとしたら、非常に不健全

――性急な議論が出てきた背景をどう考えますか。

 最悪の事態を念頭に置いて敵基地攻撃能力を持つという発想は以前からあったし、専守防衛という基本理念のもとでも、自衛権の範囲として法理論上一定の攻撃力は持てるという解釈は、鳩山一郎内閣以降、歴代政権が踏襲してきた。

 ただ、専守防衛は理念であり自衛権を抑制的に捉えるが、情勢の変化によって解釈が変わり得る。憲法で戦力の不保持や交戦権の否認が規定されている中で、現実の国際政治や軍事情勢の変化に対応するため、専守防衛を逸脱しない範囲についてはガラス細工のように積み上げてきた面がある。

 法理論上可能だが現実の能力を持たない、という意味では、核兵器についても同様だ。現状をどう認識し、何が最も効果的な抑止力たり得るかは、常に議論すべきものだ。新たなミサイル脅威や米中対立など、安全保障環境が厳しくなったことで、これまで具体化できなかった政策に踏み出すべきだという議論が出てくること自体は理解できる。

 しかし、仮にも安倍政権のレガシー(遺産)作り、というようなことで論じられ、受け止められているなら非常に不健全だ。安全保障政策はそうした動機で論じられるべきものではない。