ADRによる私的再生を模索していたPHSのウィルコムが一転して、会社更生法を申請し、日本航空(JAL)の再生支援で一躍有名になった「企業再生支援機構」の支援を受けようとしているとの報道が1月27日の新聞各紙を賑わせた。

 しかし、報道された内容を精査して浮かび上がってくるのは、水面下で進んでいる交渉がウィルコムの再建支援というよりも、むしろ、ソフトバンクが、データ通信速度が飛躍的に向上するウィルコムの次世代PHS事業を事業買収すると言い表すべき実態がそこに存在する事実だ。

 換言すれば、中小企業の再建を支援するために設立されたはずの「機構」が、ソフトバンクの事業買収のために公的資金を投入するという世にも奇怪な流用劇である。

 最初に問題の記事をスクープしたのは、27日付の日本経済新聞朝刊だ。1面トップで、「ウィルコム 更生法活用で再建へ 機構・ソフトバンクと調整」という見出しを冠し、「PHS最大手のウィルコムは会社更生法を活用して再建を目指す方向で、支援を仰ぐ公的機関の企業再生支援機構やソフトバンクと最終調整に入った」などと報道した。

 様々な問題が指摘されて再建自体が危ぶまれているとはいえ、JALが今月19日に東京地裁に会社更生法の適用を申請し事業会社として国内最大の破たん劇となったことや、機構が同社の再建を支援する方針を表明したことの連想が働いたのだろう。

法的整理はまだ選択肢の
一つに過ぎない?

 各報道機関はこぞって、この記事をほぼそのまま追い掛けた。例えば、朝日新聞は、同じ日の夕刊(3版)12面のアタマ記事の扱いで、「ウィルコム 更生法活用へ 『事前調整型』機構などと調整」と追随した。他の大手紙も、ホームページの報道などを見る限り、「ウィルコム、更正法活用を検討」(読売新聞)、「ウィルコム:更生法活用で再建 機構と最終調整」(毎日新聞)、「ウィルコム 更生法活用も検討 機構支援前提に透明性確保」(Sankei Biz)といった具合だ。

 会社のイメージ低下を懸念する声や交渉の難航から、実現までの紆余曲折が予想されるといった指摘を加えるぐらいで、いずれも、機構の融資の妥当性そのものに焦点を充てる記事は存在しなかった。

 だが、当のウィルコムは、これらの報道を否定するコメントを公表した。同社のホームページにも掲載されているが、「本日の一部報道について」と題して、「(問題の記事は)報道機関による憶測記事であり、報道された内容は弊社から発表したものではありません」としていたのだ。