同日の渋谷では、国王のファッションを揶揄したコスプレの男性が登場し、拍手喝采を浴びた。

「いままでは王室に対して声を上げることが本当に怖かった。でも、いま戦わないとタイにいる新しい世代が良い時代を生きられないでしょう。タイで頑張っている学生たちを見ていたら、一緒に声を上げなければと思ったんです」

三本指を掲げることが政府に対する抵抗の証し。アメリカの映画「ハンガー・ゲーム」にちなんだもので、本国タイではデモの象徴になっている三本指を掲げることが政府に対する抵抗の証し。アメリカの映画「ハンガー・ゲーム」にちなんだもので、本国タイではデモの象徴になっている

 また、意外なことを話す参加者もいた。

 都内に勤務する会社員のタイ人男性は、「前国王のときから王制には疑問を持っていました。国王も同じ人間なのに、まるで神のように扱われてきたからです」と言う。

 前国王は貧困層の生活を改善するプロジェクトを自ら手がけ、政争が起きれば仲裁する「偉大なる父」として、崩御後のいまも国民から深く敬愛されている存在だ。しかし、どれほどの偉人であっても、批判することが犯罪にあたるような社会はおかしいと感じる人々は、実はたくさんいたのだという。

「その王制を守るために、これまでタイは民主化を進めてこなかったのではないか、とも思います。民主主義によって言論の自由が保障されれば、特権階級である王室に批判の目が向かうことは明白だからです」とも語る。

不安はあるけれど
日本人にも知ってほしい

 渋谷デモを主催した一人、カオルさん(仮名)は、もう来日して20年近くになる。いまは都内でタイ・マッサージの店を経営しているが、タイ本国の学生たちを支援しようと、フェイスブックやツイッター、LINEグループなどでデモを呼びかけた。

「タイも、日本やイギリスのように憲法の下に王室が位置する、しっかりした立憲君主制の国になるべきです」と言う。決して王室を否定しているわけではなく、改革をしてほしいのだと強調する。

熱弁を振るうカオルさん(仮名、中央の拡声器をもった男性)。母国の若者に同調してデモを主催した熱弁を振るうカオルさん(仮名、中央の拡声器をもった男性)。母国の若者に同調してデモを主催した

 しかし、デモを主催したことで、危険はないのか。日本にいる今はともかく、タイに帰国したときに不当な逮捕などの可能性はないのだろうか。実際、本国では活動家たちの逮捕も相次いでいる。

「どうなるかわからないけれど、逮捕されてもかまわないと思っています。いま声を上げなければ、タイは良くならない」(カオルさん)

 誰もが同じような不安を抱えながら、今回の渋谷デモに参加している。それだけ王制という権威はタイ人の中で巨大なのだ。

 それでも、より危険な母国で王制に異を唱えはじめた若者たちをなんとか応援したい。そんな一心で渋谷に集まった在住タイ人たちは、「これからも日本人にも訴える活動を続けたい」と言う。

(ライター 曽井七郎)