コロナ禍で急成長の「産直SNS」は、担い手不足の農業・漁業を蘇らせるか食に関する情報発信はどう変わるのでしょうか Photo:PIXTA

全国の農家・漁師から直接食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」がいま急成長を遂げている。本年2月時点で約5万人だったユーザー数はコロナ禍の半年で22万人を超えた。この急成長の肝になっている要素の一つが「発信」である。ポケットマルシェ代表取締役CEO・高橋博之さんは先般、Twitterフォロワー数が23万人を超える田端信太郎さんをコミュニケーション戦略顧問に迎え、農家や漁師の発信力を強化し、新たなインフルエンサーを次々誕生させている。ここでは、ポケットマルシェの活動が共感を生む要因と、ビジネスにおける発信の意義について話を聞いた。(ライター 正木伸城)

コロナ禍で起こった
「死」に対する意識の変化

――ここ数カ月で急激にフォロワー数を伸ばしているポケットマルシェ(以下、ポケマル)の生産者が次々出てきました。「Twitterなんて未経験」という方も多かったところからの急変自体が驚きですが、ポケマルの目指すことに変化はあったのでしょうか。

高橋 発信といっても手段にすぎません。目的は「生産者と消費者がつながる場」をつくることです。そして、食を通じて「生きる」リアリティーを再生することです。現代は「死」が遠いんです。可能な限り死を見ないで済む社会になっている。その反作用で「生きる」こと自体のリアリティーも弱まっていると感じています。

――高橋さんは東日本大震災の時からその問題意識をお持ちで、「生を支えるものを知る」メディアとして「東北食べる通信」も発行されています。新型コロナウイルスの感染拡大も、人が「生」や「死」を考えるきっかけになったのでしょうか。

高橋 例えば緊急事態宣言下、著名人が亡くなるなどしてコロナがグッと身近になった人は多いと思います。また、テレビをつければ欧米では膨大な感染者数や死者数が報道されていた。それらを経て「自分の大事な人が死ぬかも」「自分も死ぬかもしれない」という思考が頭をよぎった人は少なくないと思います。人間は、死という“締め切り”が鮮明になると、自身にとって何が大事で何が大事じゃないかということに気づくんです。あのときは「壮大な断捨離」が起こっていたと思っています。

――つまり、自分にとって何が実は必要でなかったかを知って、身辺を整理することですね。その影響で「食」の見直しも起こったかもしれない。

高橋 そんなときに「食」についての生々しい情報があったらいいですよね。なので、コロナが始まる前から「平成の百姓一揆」と銘打って47都道府県を行脚し、農家や漁師の皆さんに思いの伝え方や「消費者と直接つながっていこう」というマインドチェンジを呼びかけてきました。生産と消費が大規模流通システムで隔てられているなら、「その隔たりを越えよう」と言ってきたんです。

 台風一つで作物は台無しになる。そんな“なまのもの”を消費者がスマホの充電みたいに食べて消費する社会って、僕は嫌で。それは「生きる」リアリティーの喪失につながっていると思います。