社員Aはコロナ禍で転職し、営業部員として働き始めた。営業成績も優秀で、上司らからも評価されていたのだが、専門学校卒なのに大卒だと学歴詐称していたことが、課長にバレてしまう。極めて優秀な社員を「大卒ではなかった」ということで解雇できるのか。(社会保険労務士 木村政美)
地方都市で衛生消耗品の卸、小売業を営む。従業員数百名。コロナの影響により需要増加のため、随時営業社員の募集を行っている。
<登場人物>
A:30歳。以前勤務していた都内の旅行会社がコロナ倒産したため、Uターン。6月から甲社の営業社員として勤務。
B:Aの上司で営業課長。40歳。
C:甲社の社長。50歳。
D:30歳。Aの学生時代の同級生。Aと同じく中途採用で入社後営業課の所属となる。
E:甲社の顧問社労士。
転職先でも順風満帆も
同級生との再会で暗雲…
入社後Aに与えられた業務は、販路拡大のための新規開拓が中心で、B課長が戦略を練りターゲットにした企業に売り込みをかけるというものだった。もともと人と接するのが好きで人当たりの良いAは前職でも営業を担当し、上司や先輩たちを押しのけて優秀な成績を上げていた。そのせいか仕事ののみ込みが早くも3カ月目から新規取引先を数社獲得し成績を伸ばしていった。
この成果にB課長は、
「自分の後釜はA君だ。数年後には課長だな」
と周囲に話すようになった。それはC社長も同じで
「本当にいい人財が来てくれた。A君はまさに将来の会社を背負って立つ人間だ」
と手放しで喜んでいた。まさに順風満帆だったAの会社人生。しかし、まさか陰りが出ることになろうとは…。
それは10月に入ったばかりのことだった。
Aが社内の廊下を歩いていると、背後から「A君!」と声がしたので振り向き相手の姿を見て驚いた。
「D君じゃないか!何でここにいるの?」
「俺、今日からここで働くことになったんだ」
「そうか。この頃忙しくて連絡取ってなかったから、君が転職活動してたなんて知らなかったよ」
「それはお互いさま。てな理由でA先輩、よ・ろ・し・く!」
「ああ…」
DはAと同じ営業課に配属され、B課長の指導を受けることになった。この事態にAは嫌な予感がした。