日本ではなぜハンコしか
「本人確認」の方法がないのか

 世界では番号1つで公的・私的サービスの本人確認ができるのが当たり前の状況の中で、なぜ日本だけがこんな状況なのかというと、左派勢力やマスコミが中心となって「国民総背番号制」という言葉をつくり、激しく反対をしてきたからだ。

 実は日本でも、北欧の福祉国家が導入したのと同時期の1970年、佐藤栄作内閣で「国民識別番号制度」を導入すべきだという議論がなされたことがある。さまざまな保障や福祉サービスをワンストップで受けるには、このシステムははるかに効率がいいからだ。

 しかし、これに「プライバシーが丸裸だ」「軍国主義に逆戻り」「囚人みたいで嫌だ」と猛烈に反対したのが、労組、マスコミ、そしてえらい学者センセイたちだった。

「総背番号制 反対へ国民運動 学者・文化人ら旗揚げ」(1972年11月16日 朝日新聞)

 こうして立ち上げられたのが、「国民総背番号制に反対しプライバシーを守る中央会議」だ。労組と学者、文化人を中心に、この団体は「プライバーを守れ」というかけ声のもとで勢力を拡大。1985年4月になるとさらに活動の幅を広げて、外国人登録法による指名捺印制度の廃止も訴えた。

 このときに代表委員として法務大臣や警察庁長官、政令指定都市の市長などに声明を送ったのは、名古屋大学教授の北川隆吉氏である。多くの業績を残した社会学者だ。

 そんな立派な学者だからだろう、「学者の国会」と呼ばれた日本学術会議の会員も務めた過去があり、指紋捺印の反対運動の3年後、1988年6月には再び日本学術会議第14期会員に選ばれた。

 政府、特に法務官僚や警察官僚からすれば、国が進めたい政策をことごとく邪魔する北川氏が日本学術会議会員に戻ってくるということを、苦々しく思っていたはずだ。が、どうすることもできない。その5年前の中曽根内閣時代に、「形だけの任命をしていく」と国会答弁をしてしまっているからだ。