「物質使用やギャンブルの問題の背景にトラウマの影響があることは、少なくありません。また繰り返したり、失敗したりする可能性はあるのですが、失踪してホームレス化してしまうと、その経験が誰とも共有されないまま孤独になってしまう。経験を誰かと共有できていると、『今度はこうしてみようか』と考えやすくなります。そんなふうに、物語を接続していくことが大切です。だから、何回でもやりなおせることが大事です」(熊倉医師)

 それは、長い道のりになるだろう。医師をはじめ医療従事者が、失敗体験について「だからダメなんだ」といった判断をしないことは、本人が安定した暮らしを取り戻す権利を強力にバックアップする。

 この姿勢は、酒・タバコ・違法薬物など、あらゆる依存症に対して有効である。しかし違法薬物の場合、「違法なので法で罰せられる」という問題がある。さらに、「世間の目」という私的制裁もある。本質的な対策は、法のもとで犯罪として扱う「厳罰主義」をやめ、「非犯罪化」することである。世界の国々や地域には、そのようなアプローチでの成功事例がすでに多い。しかし、日本で「今すぐ、いきなり」というわけにはいかないだろう。

安全なはずの場を、安全な場に
半径3メートル以内からのアプローチ

「心の逃げ道」を喪失したホームレスたち、コロナ禍の炊き出しで見た実像本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中

 学校・病院などは、一応は安全が確保される「聖域」であるはずだ。しかし、現実はそうなっているとは限らない。熊倉さんは、このことも重要な問題だと考えている。

「学校現場や警察や病院は、知らないうちにトラウマを再生産していることがあります。サンクチュアリ(聖域)でトラウマを再体験してしまうことは、大きな問題だということが、改めて着目されてきています。サンクチュアリであるべき場は、サンクチュアリであるように変わっていく必要があります」(熊倉医師)

 誰が、その変化を起こすのだろうか。

「システムであり、支援を提供する我々の側です。我々が提供している支援のシステムの中に内在してしまっている暴力の構造を見つめなおして、それを構造的に変えていく必要があります」(熊倉医師)

 構造的な変化のためには、年単位、場合によっては10年単位の取り組みが必要であろう。今、出来ることは、遠い目標を見つめつつ、目の前で目標につながる変化を形にすることだ。その変化をつくる可能性は、あらゆる人に開かれている。

(フリーランス・ライター みわよしこ)