学習支援と子ども食堂の実施で参加者が拡大

ウィズコロナでも、誰も置き去りにしない「あーち」という空間「のびやかスペースあーち」のコンセプトは「子育て支援をきっかけにした共に生きるまちづくり」。施設の参加者(利用者)はさまざまだが、子育て中の保護者が多い 写真提供:あーち

  あーちの利用者(参加者)は、準備委員会が想定していたとおりに推移していったのだろうか――2016年9月に発表された、神戸大学大学院の研究論文「『子育て支援を契機とした共生のまちづくり』実践の意義と課題:『のびやかスペースあーち』利用実態調査単純集計からの考察(2)」では、利用者(参加者)の中心が育児中の母親という調査データが公になっている。

「あーちを開設してしばらくは、参加者の多様性が広がらないことに私自身は焦りを覚えていました。乳幼児とお母さんは次々とやってくるのですが、そこからの広がりが乏しく、積極的に仕掛けていく必要性を感じました。常連さんだった、重度障がいのある小学生の保護者と懇意になり、多様性を広げる取り組みを一緒に行ったりしました。さまざまな障がいのある子どもや大人、外国人、高齢者の参加を望んでいますが、結果的には、障がいのある子どもや生きづらさを抱えた青年が多く来ています」

 現在、あーちには、利用者(参加者)の多様性を高めつつ、すべての人が受け入れられていると感じることのできる場を模索するために「よる・あーち(あーち居場所づくり/あーち学習支援/あーち子ども食堂)」というプログラムがある。

「本来であれば、毎日どのような人が来ても対応できることが望ましいのですが、運営側の限界があるので、金曜日の午後に限定して、とにかく多様な人たちが集まれる場を設定しました。これが、『あーち居場所づくり』という取り組みで、遊びとおしゃべりを媒介に参加者の関わり合いを作り、相互の課題を共有していくプログラムです。

 そして、2016年に、学習支援や子ども食堂のプログラムを始めました。開設してからの10年間は『勉強』『学習』といった言葉をなるべく使わないようにしていました。神戸大学が運営しているということで、学習塾を連想する誤ったイメージを作りたくなかったからです。ただ、子どもの貧困が社会問題としてクローズアップされるようになり、学習支援への理解も社会に浸透しました。そうした情勢のもと、あーちが移転した際に、神戸市側から子ども食堂や学習支援の実施を打診されたのです。

 結果、学習支援、子ども食堂、従来のあーち居場所づくりを一体化したプログラムを展開することにし、『よる・あーち』と名付けました。多様な人たちが『寄る』『夜』という2つの言葉をかけた名前です。学習支援と子ども食堂によって、多様な人たちがあーちに参加するようになりました。ビフォーコロナには、毎週60~80人でにぎわっていました。特に、子どもや生きづらさを抱えた青年がたくさん集まるようになり、彼ら彼女たちがあーちで市民や学生と出会い、『生きる姿勢』のようなものを学び、日々の活力を得ています。同時に、市民や学生、そして私自身が、彼ら彼女たちから現代社会の課題を具体的に示してもらっています」

 子ども食堂を実施する自治体や外国につながる子どもの学習支援を行う団体は全国に多数あるが、あーちの場合は、具体的にどのような内容になっているのだろう…。

「学習支援といっても、学校授業の補習ではありません。結果的に学校の宿題を行うことも多いですが、授業についていくのが難しい子どもや生きづらさを抱える青年たちが、支援者とマンツーマンで自分のことをゆっくり話すことや学習のモチベーションを上げることに力点を置いています。あーちの学習支援では、学校を卒業した青年層も『勉強したい』と申し出てきます。子どもたちが勉強しているのを見て、自分もやり残したものがあると感じるのでしょう。

 子ども食堂は、灘区連合婦人会と連携しています。実際に調理してくださるのは、この会の女性たちです。『なるべく家庭の味を』という思いの手作り料理がテーブルに並びます。いわゆる『貧困家庭』の子どもの参加者はそれほど多くないですが、食に関わる困難を抱えている子どもはたくさんいます。たとえば、発達障がいに関わる偏食傾向から食事を楽しくできなかった子どもたちも、学生とおしゃべりしながら食事しているうちに姿勢が変わったという声を聞きます」

よる・あーち参加者の声

(子どもが小学校高学年のお母さん)
毎週金曜日を心待ちにしています。週末の宿題を見て頂けたら助かると思っていたのですが、息子はすっかりAくん(学生)になついてしまい、好きな分野の工作も見て頂き母子共に嬉しく思っております。ありがとうございます。(後略)

(子どもが小学校低学年のお母さん)
息子は学校では一人で居て、友達がいません。よる・あーちに来ると、誰かしらボランティアさんが話し相手になってくれるので心が満たされてるようです。以前は、そこまでダンスに興味がなかったのですが、よる・あーちで皆でダンスするようになり、家でも部分部分マネをして踊るようになりました。ダンスタイムの存在が、よる・あーちに来る楽しみの1つにもなってます。私自身も、お母さん達と話す機会ができて、悩んでることを聞いてもらったり、助言してもらったりなどメンタル的に助かっています。