研究機関である大学と学生による推進の意義

 社会福祉法人やNPOではなく、大学機関が行政と連携して社会教育施設を運営する意義は何か?――津田教授は次のように解説する。

 「重要なのは、第一に、大学が研究機関であるということです。私たちは、あーちに来る人たちとの関わり合いからの研究を行い、それを社会に発信していきます。“多様な人の関わりが生む学び合い”というテーマは、あーち設立当初は社会のニーズがあまりありませんでした。行政の方に説明しても『わかりにくい』と言われることもありました。社会的認知の低いテーマへの取り組みは、大学だからこそ本気でできたのだと思います。

 また、取り組みに学生を巻き込めることにも意義があります。学生たちはボランティアの支援者というだけではなく、大学にとっては大切に育てるべき対象であり、彼ら彼女たちが地域コミュニティで多様な人と出会い、学んでいくことが教員としての願いです。あーちにやってくる子どもたちや保護者にとっても学生はありがたい存在で、時にはお兄さんお姉さん的な立場であったり、時にはメンターや相談役だったりします。

 学生自身もさまざまな人から刺激を受けています。障がいのある子どもとの関わりを経験でき、障がい児を育てる親から話を聞くなど、学生にとって、あーちは社会的実践につながる学びの宝庫なのです。さらに言えば、それぞれの学生も何らかの課題を抱える当事者であり、あーちの中で自分の居場所を見つけ、自身を癒やしたりもしているのです」

ウィズコロナでも、誰も置き去りにしない「あーち」という空間2005年9月のあーちオープニング時の子ども向けチラシ
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 昨年2019年、津田教授は、共生社会の実現を目的とした、文部科学省の「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」に参加した。その機会に考え得たものは大きく、「あーち」をベースに、障がい者の活動領域の拡大にいっそう努めていく意向だ。

「『~有識者会議』以降、文科省による障がい者の生涯学習推進政策に関わっています。知的障がい者に大学教育を開くという趣旨の『神戸大学学ぶ楽しみ発見プログラム』(KUPI)の実施もその一環です。

 文科省からの委託によって実施しているこのプログラムには、知的障がいのある青年が10名ほど、週3回、大学に授業を受けにやって来ます。共生社会の実現に向け、国はいろいろな施策を打ち出していますが、あーちの取り組みはそのモデル的な位置づけになるでしょう。障がい者の文化芸術活動の機会、スポーツ参加の機会、教養を高める機会、スキルを高める機会など、それぞれの学びの機会をあらゆる地域で展開していくことを目指しています。

 けれども、障がい者にとっての学びの機会は、すべての領域と地域でまだまだ稀少です。まずは、誰でも参加でき、学習意欲を高め、学習仲間を見つけ、行動に踏み出すための拠点が(兵庫)県内のいたるところにできたら、という思いで動いています」

あーち参加者の声
「あーち通信」(2019年12月号)の学生による寄稿文の抜粋

あーちにはいろんな「人」がいます。そして、いろんな姿に変身しています。ダンサー、ミュージシャン、それを盛り上げてくれる熱狂的なファン。たくさん遊んでくれるお兄ちゃんにお姉ちゃん、…かと思ったら生き方に悩む一人の青年。その青年の人生相談に乗ってくれる方、家では「お父さん」「お母さん」なんでしょうか。あたたかい珈琲を淹れてくれるマスター。無理に言葉を交わすことはなくとも、横にいるだけで落ち着ける人。あなたが来た時、きっとそんな素敵な「人」たちと出会い、あなたも「何か」になる可能性を秘めています。