建築物の改築や解体時の対策の不備によって相次ぐアスベスト飛散事故をどう防止するのか。今年6月から開催されている環境省の「石綿飛散防止専門委員会」で、その議論が大詰めを迎えている。アスベスト飛散の防止に実効力を持たせることができるのか、あるいは骨抜きとなるのか。環境省のアスベスト規制のゆくえを占う、重大な局面を迎えている。

「形だけの法改正」と当初から懸念

 環境省の「石綿飛散防止専門委員会」は、大気汚染防止法の不備を改善し、アスベスト飛散事故の防止を図る目的で設置された。同省の説明によれば、昨年の東日本大震災で明らかになった不適切なアスベスト除去工事などに対応するため、規制の強化を検討することになったのだという。

 専門委員会は今年6月から開始され、これまで4回開催されている。2回目以降は専門家や業界団体などによるヒアリングが行なわれてきた。本日26日の会合では論点整理が予定され、11月下旬までの残る2回で中間報告が作成されることになる。続く12月の大気環境部会に中間報告は提出され、これに基づいて2013年の通常国会で法改正との見通しだ。まさにいまが法改正のゆくえを占う分水嶺といえる。

 この専門委員会をめぐっては当初から「形だけの法改正」になるとの観測が語られ、関連してきな臭い話が漏れ聞こえてきた。たとえば以前に週刊ダイヤモンドの記事でも取り上げたが、開催前から特定の簡易測定機の導入について「事務次官まで話が通っている」と担当課長が業界団体の新年会で話していたとの証言が複数あり、規制強化を隠れ蓑にした一部企業への利益誘導との“疑惑”が指摘されていた(同省は否定)。

 しかも、環境省が当初改正の主な審議事項として出してきたのは、(1)解体現場などへの立ち入り権限の追加、(2)大気濃度調査義務の追加、(3)大気濃度基準の設定──のわずか3点にすぎない。あげくに同省大気環境課は、(2)に関連して前述の簡易測定器の公定法への位置づけも議論されると説明していた。

 前掲の記事でも紹介したが、かねてNPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏は「監視の強化とその両輪となる罰則の強化・適用、レベル3建材(説明)の対策強化や届け出義務化、除去工事後の安全確認の強化など、以前から指摘している改善事項は山積みのはず。まずはその対応をきちんとすべきです」と批判していたし、こうした制度やその運用の不備はかねてから指摘されていたことだ。

 にもかかわらず、あえて本筋から外れた上記の3点だけを改正の論点として出してきたことに、環境省のやる気のなさが表れていると受け取られた。

「前回の法改正から6年も何をやっていたのか」と被害者支援団体どころか、分析機関や除去業者からも呆れる声が上がっていたほどだ。