作業を通して深まる親交
労働がもたらす爽快感

 男性は5人ほどのチームに分かれて各所に散っていった。作業は単純で、溝に溜まった汚泥をカゴ状のスコップのようなものですくい上げて袋に詰めていく、というものである。溝の蓋を持ち上げると虫が一気に飛び出して辺りを舞ったが、最も警戒していたあの茶褐色の不快害虫は最後まで見当たらなかった。マスクをしていたせいもあると思うが、ドブのにおいもあまり気にならない。
 
 筆者のチームは、というか参加しているほとんどの人がそうだが、皆ご年配である。しかし年齢を感じさせないたくましさがあり、特に我が班の班長の働きの無双ぶりはすさまじく、一番若いはずの筆者が後れを取るまいと必死になった。
 
 筆者はまずドブさらいのやり方からわからないので逐一教えてもらいながら作業に当たった。言葉を交わしたことのない、顔も知らなった人たちとの共同作業だが、作業を通してぽつりぽつりと会話していくうちに「完全なる赤の他人ではなくなった」という手応えを感じた。
 
 1時間ほどで作業が概ね片付くと、同様に作業を終えた人らが適当なところに集まっていた。娘らもいて、ご近所さんと遊んだり、初めましての方々に愛嬌を振りまいている。それにしてもこんなに住民がいたのかと驚かされるほどの人出で壮観であった。作業を終えた爽快感も手伝って辺り一帯軽やかな空気が漂っており、お祭りのようでもあった。
 
 娘と合流し暇を潰していたがなかなか解散しないのを訝しんでいると、どうやら道路の補修工事がまだらしく、それが終わるのを待つらしい。やがて工事現場でよく目にするアスファルトを平らにする機械などを用いた本格的な補修工事が始まって、それを数十人が見守るという妙な空間が形成された。補修工事担当の人らは慣れている様子で、注目を浴びながらの作業で音もでかくて派手だから、おそらく“地域清掃”において花形的なポジションなのであろうと思われた。
 
 補修工事が終わり、お菓子と飲み物を頂戴して解散、帰宅したのは10時半を過ぎた頃であった。正味2時間の外出である。
 
 家族をご近所に顔見せできたこと、知らないご近所さんと話ができたこと、ドブさらいを体験できたことに筆者は深い満足を覚えていた。地域清掃が終わってみるとご近所一帯が安息の地のように感じられるようになっていた。これは港区に住んでいた頃にはなかった感覚であった。