星野リゾート,情シスチーム星野リゾートの情シスは、どうコロナ禍を乗り越えたのでしょうか。 (左から)同社情報システムグループ グループディレクターの久本英司氏、同プロダクトオーナーチームリーダーの佐藤さやか氏、エンジニアチームリーダーの藤井崇介氏 写真提供:星野リゾート

星野リゾートでは近年、IT開発の内製化を急速に進め、現在は30人程度の体制を整えている。新型コロナウイルスが宿泊業に打撃を与える中、刻々と変わる開発計画や緊急案件に現場が対応し続けることができたのは、内製化の賜物でもある。「ひとり情シス」からスタートした星野リゾートは、どのようにしてエンジニア組織づくりを行ったのか。(編集・ライター ムコハタワカコ)

「ひとり情シス」時代の
現場の評判は「勝率4割」

 長野県軽井沢の地に最初の旅館を開業してから、2020年で106年目を迎えた星野リゾート。新型コロナウイルスの感染拡大が旅行業界全体に大きな打撃を与える中、同社も例外ではなく多大な影響を受け、その影響はシステム部門にも及んだ。

 2020年からスタートするはずだったシステム再構築の3カ年計画は白紙に戻り、計画変更や緊急案件、Go Toトラベルキャンペーンへの対応などに追われたシステム部門。逆境に耐え、スピードを持って変化に向き合えた理由のひとつは、IT開発の内製化が進んでいたことにある。

 現在、星野リゾートの情報システムグループは約30人体制。主な拠点は軽井沢と東京の2カ所にあり、ほかにリモートで業務を行うメンバーもいる。軽井沢チームはネットワークやサーバーなどの運用やインフラ構築を担当、東京ではシステム開発やプロジェクト推進などを担当しており、ホテルの開業時などのタイミングで現地で合流してシステム導入を進めるようなスタイルを取っている。

 だが、現在、チームを統括するグループディレクターの久本英司氏が入社した2003年当時は「担当者はゼロ」で、ITに関する業務は総務部門が兼任で行っていたという。

「ホテルが2カ所、社員数300人規模のころのことです。私はそれまではエンジニアやプロジェクトマネジャー、プロダクトオーナーとして働いてきたのですが、軽井沢の自然の中でのんびりしたくて、ゲストのアクティビティーのサポートやビールづくりにかかわる仕事に就きたいと応募しました」(久本氏)

 結局、星野リゾートで望んでいた仕事に就くには資格や経験が必要だったため、情報システムの担当者として入社することになった久本氏。背景には、星野リゾート代表の星野佳路氏が「これからはIT、特にウェブは重要になる」と考えていたことも影響している。

 ただし、入社当初の役割はあいまいで、星野氏から久本氏の業務について社内に特に説明もなく、「3カ月の間はやることがなくて、軽井沢で建てた自宅の『家づくり』に打ち込んでいました」と久本氏は苦笑する。

「3カ月たって、さすがに『クビになるかも』と不安になってきたので、『システムで問題があるところがあれば、何でもやるので相談してください』と社内に声をかけました」(久本氏)

 エンジニアとしての開発経験はあった久本氏だが、実はPCなどの機材管理や修理、ネットワークや電話回線などの整備は当時未経験だった。「最初は何もできなかったのですが、調べて、覚えてやっていました」と振り返る。