星野リゾート代表・星野佳路さんに聞く、「顧客満足度調査」と「社員満足度調査」の狙いと実施方法とは? 新刊『ザ・ビジュアルMBA』発売を記念して、同書の監訳を務めていただいた星野さんに「経営理論はビジネスの現場でどう役立つのか」を伺うZoomセミナーを開催しました。その内容をダイジェストでお伝えする4回目です!

――経営理論について、自分に都合のいいことだけをかいつまんで実践するのではなく、教科書に書いてあることをすべて徹底してやることが大事だ、と折に触れて仰っておられますね。

情報を開示する、という点では、コロナ禍にあって自社の倒産確率を社内でシェアされたと聞きました。その狙いは?

「18ヵ月サバイバルマップ」

新型コロナウイルスの蔓延によるキャンセルの山で社内がパニックになっていた春先、(2020年)4~5月という短期で見るのでなく、18ヵ月(=1年半)で考えよう、と呼び掛けたんです。これ(右図)が、「18ヵ月サバイバルマップ」です。当時は、自粛警察もいたので、この図の需要の波が高まるところにスキーやサーフィンのマークを入れただけで、けしからんと言われたりもしましたが……ともかく、さらには、次のような3大方針も掲げました。

1)現金をつかみ離さない
2)人材を維持し復活に備える
3)CS・ブランド戦略の優先順位を下げる

危機のときに大事なのは、情報のコミュニケーション頻度を高めることですよね。だから、社員向けに私が書いているブログの更新頻度を急激に高めました。

――たしか、通常は月2回更新されているとか。

そう、でもコロナ禍が始まったころは毎週発信するようにしました。社員からのフィードバックももらいながら、みんなが不安に思っているテーマをズバッと発信していきました。

「倒産確率」を割り出して、社内にシェア

でも、7回も8回も出していると「また同じ話をしてる…」と思われるようになる(笑)。いわゆる「いいね!」マークのような「Gung Ho!」マークの数が減ってきて、だんだん退屈されてきているのがわかってきた。だから、そこで「倒産確率」を出したんです。これが、社内でメチャクチャ受けまして(笑)。

やっぱり、これを知りたいんですよね、みんな。うちの会社が大丈夫なのか、と不安に思っている人と、大丈夫らしいよ、と楽観的な人と両方いるなかで、疑心暗鬼になるし、あれこれ考えるのは無駄な時間ですよね。

倒産確率は正確にはわかりませんが、私なりに「こうなったらヤバイ」という条件はわかりますから、

1)どのぐらい売上を維持できるか
2)どのぐらいコスト削減できるか
3)いざとなったら外部から資金調達がどのぐらいできるか

という3点について、それぞれ3つのシナリオをつくって発生確率を計算し、3×3=27通りのパターンを算出したわけです。そんなに大きく外れてないと思うんですけど。

今もこれを毎月出してます。7月に初めて生存確率が上がりました(資料を共有して見せる)。

――あ、これは「生存確率」ですよね。倒産確率かと思って、一瞬びっくりしました(笑)。

そう、途中から刺激が強すぎるから、「倒産確率」から「生存確率」に変えたんです。社内でも、生存確率をいかに上げるかが議論され始めました。

ただ、これはどちらかというと楽しくコロナ期を乗り越えようというのが主旨で、少しお遊びの要素が強いです。日ごろ意識して社内で共有しているのは、業績ですね。それと、顧客満足度。

――顧客満足度を活用するうえで気を付けておられるのは?

星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

顧客満足度調査を実施しているホテルや企業は多いですが、マネージメントスタッフにしか共有されていないことが多く、クレームなどの悪い情報に目が行きがちです。でも長年やってみて、調査内容はもっとダイレクトに全スタッフに伝えたほうが、モチベーションにつながると思う。実は、怒っているより褒めているお客様のほうが多いからです。

ケン・ブランチャード理論をはじめ、海外では上司が褒めるのが大事だと言われます。でも以前、星野リゾートで1日3回上司が部下を褒めるよう徹底したら、全然モチベーションが上がっていないばかりか、「最近、マネージメント層が気持ち悪い」と言われたんですね。つまり、接客業にかかわるスタッフは給料や評価が上がればうれしいですが、上司から毎日白々しく褒められても、そんなにうれしいことじゃないんですよ。でも、お客さまに褒めていただけると、その白々しさがないし、「ああ、この仕事をやってよかった」と素直に思えて、モチベーションにつながる。

だから、顧客満足度調査は、スタッフが直接お客さまから褒めていただく機会をつくるためにやっています。褒めてもらえることを繰り返そうとするポジティブ・リ・エンフォースメントが働くからです。すると、スタッフに自信がついて、自然と笑顔が出てくるし、発想も豊かになって、大胆な行動に出てくる。一方で、マネージメントが満足度調査をもとにクレームの犯人捜しをすると、ネガティブ・リ・エンフォースメントが始まって、スタッフは接客を怖がるようになって笑顔が出なくなります。良いサービスをつくるために、スタッフ一人ひとりがいいメンタルの状態で接客できる環境にするのがマネージメントの仕事。顧客満足度調査は、使い方によって、そのための大きなツールになると思います。

――社員の満足度調査はどのように測っているのですか。

顧客満足度調査はデイリーで把握しています。宿泊されたお客さまの30%から回収できるよう目指していて、現状、20~30%は回収できています。社員満足度調査は毎日というわけにいきませんが、年1回は、会社や上司、職場に対する満足度や異動希望をとる機会を設けています。

今や、企業が社員に選んでいただく時代ですから、職場に満足してもらって楽しく働いてもらえるようにしていかないといけない。今も直すべき点は多いですが、「改善の方向に向かっている」ことを示すことが重要だと思っています。私たち観光サービス業界は、まだまだ他業界に比べると年収レベルも改善していかなければならない。年収を上げることは、すごく大事な課題です。仕事は楽しければいいということもありますが、休暇制度や年収といった保障面も私たちのなかでは課題になっていて、数値目標を決めて努力しています。