『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

独学の達人がやっている「最近本を読むのが億劫」を解決する3つのワザPhoto: Adobe Stock

[質問]
 最近読書が億劫です

 もともと自分は本を最後まで通読するのは全く苦ではないのですが、読めども読めどもほとんど記憶に残らず(もちろん読了した本も何度も読み返しています)、最近では「どうせ読んでも全く内容が思い出せないもんなぁ……」とせっかく買った本がどんどん未読のままたまっていっています。「なにかと理由をつけて自分はサボりたいだけなのではないか?」とも思い、とにかく読めばなんとかなる!と自分に言い聞かせて読もうとしても頭の片隅に常に「どうせいつものようにすぐ忘れるんじゃないか。どうすればいいんだろう……」などという考えが浮かび、読書に身が入りません。何か具体的な方法、またはこういった問題に対するいい本などはありませんか?

[読書猿の回答]

【その1】タイトルから連想することを書き出す

 まずはテスト効果を使った方法です。

 読む前、タイトルを見て、これに関連して知っていること、書いてありそうだと予想すること、その他連想することなどを、思いつく限り書き出します。文にならなくても、単語やフレーズで構いません。

 テストは、学習の効果を確かめるだけでなく、学習を促進する効果を持っています。学習後にやることはもとより、学習前のテストさえ効果が、あることが知られています。

 この効果は、思い出そうとすることが長期記憶の関連した部分を活性化し再構成を引き起こすことから来ています。

 学習とは、空っぽの棚に知識という荷物を積み込むことではなく、もともと持っていた知識と新しく学んだものを結びつけ、知識のネットワークを組み替えることです。結びつけるべき記憶を活性化することは、この結びつけや組み換えを促進する訳です。

 また読書前と読書後に書き出したものを比較すれば、その読書が全く無益であった訳ではないことが明示されるでしょう。もちろん読書後に書き出したものをみて「こんなにわずかしか覚えていないのか」と落ち込む可能性もあります。

 しかしこれは、今読んだ本についてのあなたの目下の記憶を反映しています。つまりこれこそ新たに学んだことを結びつけるべきものです。読書後に書きだしたものに、今度は本を参照しながら加筆していけば、無理なく記憶ネットワークへの組み入れや組み換えが行えるでしょう。

【その2】「スラスラ読める」を疑う

 ここまでは読書そのものには問題がないことを前提してきました。

 ほとんど全く読んだことが残っていないのが本当なら、読書プロセスに問題がないか、考える必要があります。

 あまりにたくさんの可能性がありますが、例えばその本がつかえるところなくスラスラ最後まで読めたのに何も残ってないなら、あなたが読んだのはその本ではなく、自分の頭の中に元々あった関連情報なのかも知れません。

 その読書を通じてあなたが何も変わらなかったのなら、読後何も残ってないと感じても不思議ではありません。

 読書は文字に書かれた情報を汲み上げるだけの一方向的なプロセスではなく、自分の中にある様々な知識を投じて突き合わせながら進める双方向的な作業です。

 読書に投じる知識には、文字の読み方や言葉の意味、文章の構成や展開の典型例、文中の他の個所に書かれていた内容や今読んでいる文献の外にある先行する他の文献に書いてある知識、さらに自分が思考や判断に用いている認識の枠組みや前提などがあります。

 そして読むことで変わったという体験の典型例は、理解できないが読まなくてはと感じる文献と出会い、悪戦苦闘の果てに自分の認識の枠組みや前提を変えなくては理解できないことに気付き、それをやりおおせることで最後に理解に至ったといった読書体験でしょう。

 この意味でスラスラ読める書物、もっと強い言い方をすれば、自分が知っていることしか書いていない書物、自分が見下ろすことができる書物で、何も残らない読書体験がおこるのは不思議ではありません。

 他には「流暢性による誤謬」というものがあります。スラスラ読めていることから「自分はこの文章を理解している」と勘違いしてしまうのです。自分の理解度を過剰に見積もる訳です。これは同じ文章をすぐに再読することで体験することができます。

【その3】目次から内容を想起する

 著者や登場人物の語りに導かれて、作品世界の出来事を物語の順番に体験していく小説と違って、主張を説く文献は、主要命題とそれらを支える形で構成・構造化されています。

 この場合、前から順に読むことはできても、この構造に無頓着なままだと、盛り込まれた情報の軽重をつけることができず、すべてを均等に扱うことになるので、多すぎる情報をもてあまし、オーバーフローとなり、読後何も思い出せない、ということがあり得ます。

 これを確認するには、目次を手がかりに、それぞれの章に何が書いてあったか想起できるかを確認すればよいでしょう。

 最初に目次から問いをつくり、それに答えるために読み進めることも有効です。