『ストレスフリー超大全』の著者で精神科医の樺沢紫苑さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「このリアリティ、具体性は当事者の経験あってのもの。精神科医や研究者には、絶対に書けません」と絶賛しています。
今回この二人の対談が実現。医師、当事者、それぞれの立場から、発達障害に悩む人たちに伝えたいことを語ってもらいました。(取材・構成/加藤紀子、撮影/疋田千里)(こちらは2020年12月13日の記事の再掲載です)
発達障害の「診断」にはほとんど意味がない
樺沢紫苑(以下、樺沢) 僕は精神科医なので、「発達障害かもしれないのですが、どうしたらいいですか?」という相談をたくさん受けます。以前は個別に対応していたんですが、借金玉さんのこの本を読んで、これからは「『発達障害サバイバルガイド』を読んで実行してください」と答えることにしました。
借金玉 ありがとうございます。最近は大人の発達障害の本もたくさん刊行されていて、当事者ながら「発達障害ブームか?」と思うくらいです。
樺沢 確かに発達障害は今ブームになっていて、僕ら医師の間では「メンタル・バブル」とも言われています。精神疾患にも流行があり、かつては、多重人格、アダルトチルドレン、新型うつなどにも注目が集まったことがありました。
発達障害は今、様々な本、メディアでも診断基準が紹介されたり、チェックシートのようなもので簡単に調べられたりするので、「自分も発達障害かもしれない。どうしよう?!」と不安になっている人が多いようです。ただし、情報が多くなっただけに混乱が生じていて、専門的な立場から見ると、実際にはそうした情報に踊らされた「自称発達障害」の人が増えているだけという印象です。
借金玉 本の序盤に書いているのですが、僕は当事者として発達障害の「診断」がどう出るかってほとんど意味がないと思うんです。それがわかったところで、「あたり前のことができない」という問題は相変わらず存在し続ける。今のところ、発達障害は「治る」ものではないですから。
樺沢 僕もまさしくそう思います。発達障害は根本的に治るものではありません。だから、医者が一生懸命診察して厳密に診断を下したところで、結局はこの借金玉さんの本に書かれているような“TO DO”(すべきこと)を実践し、症状を改善するのが一番幸せな道です。この本が何より素晴らしいのは、診断について一切書いていないことです。
医者が書く本は、「発達障害とは何か」から入り、症状について詳しく説明した後、肝心のTO DOの部分は非常に薄いものが多い。当事者にとっては、「どうすればいいのか」「自分には何ができるのか」が一番知りたくて買ったのに、期待外れに終わってしまう本がこれまでは多かったのではないでしょうか。
借金玉 診断について一切触れていないのは、素人だからこそできる「反則ワザ」かもしれませんね。この本には、一人の発達障害者としての僕が、少しでもまともな「生活」を送れるように試行錯誤して見つけたささやかな工夫を紹介しています。すべて自分ごと、実体験なので、医学的な裏付けがあることを調べて書いたわけではありません。とにかく「自分ができる具体的な改善を積み重ねていくしかない」というのが僕の当事者としての考えです。
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。