発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年9月3日の記事の再掲載です)。
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生活の「スタートコスト」を下げろ

 昔、東京大学を卒業した知り合いに「なぜ、毎日そんなに勉強を頑張ることができるのか」と尋ねてみたことがあります。

「勉強を『頑張る』という感覚がわからない」と彼はいいました。「自分にとって勉強をすることは、毎日寝る前に歯を磨くくらいあたりまえのことだから、ことさらに頑張ろうと考えたことはない」と。

「僕は歯を磨く気力を出せない日がよくある」と返すと、彼はとことん「わからない」という顔をしました。人と人がわかり合うのはとても難しいことですね。

 たいていのものには「やるべきことに取り掛かるためのハードル」が存在します。これを僕は、「スタートコスト」と呼んでいます。

 普通の人が、スタートコスト1でできることが、僕はスタートコスト10かけないとできない。発達障害の僕らが「習慣化」を苦手とする理由は、ここにあります。実際僕は毎日「歯を磨くぞ!」と両手で顔をたたいて気合いを入れる必要がありますし、うつがひどくなってくると、お風呂に入ることさえ難しくなります。

 この人間一人一人の間に横たわるあまりに大きな差について、僕たちはまず認め、少しずつでも改善していく必要があります。

「この一手を減らせないかな?」と常に考える

 試行錯誤の末に僕がたどり着いたのが、「外部環境によって、スタートコストを極限まで下げる」ための工夫でした。具体的な方法は次の3つです。

・一元化:必要なモノが分散せず、手が届くところにある

・常時一覧化:毎日やらなければいけないことを「目に入るように」セットする

・省エネ:「やるぞ」という意思決定コストを普段から節約する

 スタートコストの削減はお金を使って設備を整える、いわゆる「投資」が必要な場合もありますが、その一方でほんの些細なことで削減できるものも少なくありません。毎日の生活の中で常に「この一手を減らせないかな?」と考えるクセをつけてみてください。

 たとえば僕の本当にささやかながら効果的な習慣として、

・パソコンの電源は落とさない
・書きかけのワードファイルはすべて開きっぱなしにしておく
・デスクがどれほどめちゃくちゃでも、パソコン作業だけはできる環境を維持する

 これらを実践しています。僕にとって、書くべきワードファイルを探して開く行動すら、あまりにハードルが高すぎるのです。これに「パソコンの電源を入れる」「デスクを片づける」まで入ってくると、もはやそこで「詰み」なのです。

「できないことはできない」から始めよう

「みんなができることができない」無力感が、僕の人生にはずっとついてきました。それは発達障害のせいかもしれないし、あるいは僕の努力が足りなかったのかもしれません。おそらくその両方でしょう。しかし、サバイバルとは手に入る資源で生き延びていくことです。いきなり理想の自分に近づいていく努力をする前に、まずは日々を苦しまずに生きられるようになることが先決です。

 あなたは東大を卒業した僕の友人みたいに、毎日当然の習慣として勉強をしたり、あるいは毎日早起きして筋トレをしたりすることはできないかもしれません。でも、今ある資源を最適化することならいつだってできます。

 どうか、「自分は怠けている」という結論に安住しないでください。できないことはできない、ないものはない。いつだってそこから始めていくしかないのです。

 まずは今日を、やっていきましょう。