「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。

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ジョハリの窓

「人間は自分自身のことについてもわずかしかわかっていない」
 と心理学者のジョセフ・ルフトとハリントン・インガムは述べている。

 自己分析に使用するフレームワーク「ジョハリの窓」をご存じだろうか。これは、上記のルフトとインガムが作ったモデルだ。

  次の4つに分けて自分自身が見た自己と、他者から見た自己を分析することで自己を理解していくというものだ(下図表参照)。

 1.自分も他人も知っている自分の性質(開放の窓)
 2.自分は気づいていないが他人は知っている性質(盲点の窓)
 3.他人は知らないが自分は知っている性質(秘密の窓)
 4.自分も他人も知らない性質(未知の窓)

 中でも、1.の自分も他人も知っている自分の性質(開放の窓)を広げていく意識を持つ。これが、自分を知ってもらう、相手を知ろうとする意識につながる。組織の一枚岩を目指すためにも、自分の強みや弱みを把握し、それをチームのグループワークで共有することが有効だ(具体的な手法を紹介する)。

 開放の窓を広げる努力を怠ると、方向性に対する食い違いが生まれ、お互いの心もバラバラになりやすい。そうなると、何時間議論しても何も決まらないといった不毛なことが起こり、皆が疲弊する。反対に、お互いのことを知る、開放の窓を広げていくことができれば、それは推進力に転換できる。

 経営者をはじめCXOは、自身の強みだけでなく「弱み」を客観視して明確にし、それをメンバーと共有する意識を持とう。高いレベルの自己マスタリーを得たうえで、会社のあるべき姿をミッションやビジョンに落とし込むと、会社の方向性に一貫性が生まれ、より強靭で揺るぎないものになる。当然ながら、最も重要な結果を実現する原動力にもなる。

 こうした自己認識力は、何もしなければ、高めることができない。自分の内側に目を向け、強みと弱みを把握する。それが、自身の価値観や志向性を言語化し、CXOならこれらを理念やビジョンに落とし込んでいくことにつながる。

 重要なことは強みだけではなく、弱みもきちんと把握することだ。人は、自分を良く見せようとしたり、評価を下げたくないと思うと、弱みや失敗はつい隠してしまうものだ。

 余談だが、スタートアップはその成長過程で必ず何度か修羅場を迎えることになる。その修羅場に向かい合ったときに、「自分を守りながら自分のやり方をなんとか正当化して乗り切ろうとする人」と「傷ついても、自分自身や他者と向き合って、自己認識力を高め変化して乗り越える人」とでは大きな差がつく。

 下図表はマサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が唱えた組織成功のエンジンのループである。結果の質を高める前に、まずメンバー同士の関係の質を高めるべきであると説いている。これは、ただ単に、「仲良し集団」になるということではない。自らの弱点も含め十全に自己認識し、それをメンバーと共有すると、それによってチーム内の「心理的安全性」を高めて、それぞれの弱点を補い、強みを伸ばし合おうとする補完的な関係になれる。