「悔やまない、好きだからこそ」
最後まで演出家だった浅利慶太

 晩年、自分の頭脳が明晰なうちにと、劇団四季を後継の吉田智誉樹社長にあっさりと譲られたのも見事な決断でした。

 そして浅利さんの葬儀は、私が経験した葬儀の中で一番の葬儀だったと思います。日本中の有名人が参列する葬儀なのに、弔辞はわずか。祭壇には、浅利さんの過去のインタビューの名セリフが映像と共に流れます。終わる頃になって、ミュージカル『コーラスライン』の「愛した日々に悔いはない」という唄の訳詩が正しいか、劇団創立メンバーと今の若手の間で議論になり、変更になったというエピソードが流れました。

「悔やまない、好きだからこそ 命燃やし、すべてを捧げ、生きた日々に悔いはない」

 これが元々の歌詞です。演劇に賭けた青春を歌い上げたいい歌詞だと思います。しかし、今は違います。「すべてを捧げ」ではなく、「すべてを捨てて」となりました。

 浅利さんたちの時代には演劇しかなかった。今の若者には色々な選択肢があるのに、演劇を選んだ。だから「『全てを捨てて』の方が、現代の役者には合う」という指摘があって、このセリフになったということでした。

 そのセリフが終わった瞬間に、「悔やまない」の前奏が始まります。参列したみんなから自然に「悔やまない」の歌声が上がりました。故人を本当に忍ぶことができた、故人を実感できた葬儀でした。

 浅利慶太は死んでも演出家だったのです。