自粛期間が明け、ようやく演劇公演が再開し始めた矢先、新宿の劇場で大規模なクラスターが発生。コロナ禍で活動しようとしている演劇人たちは、感染対策の難しさや金銭面でも赤字覚悟になってしまう事態に直面し、苦渋の決断に迫られている。さらに、そもそもの劇団の収支構造に目を向けると非効率な慣習が根付いていたことが分かった。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#11では、コロナ禍における演劇業界の悲痛な現状と実態を取材した。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
クラスターの原因は「ずさんな感染対策」
やっとの思いで再開した演劇人たちの心中
新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止していた演劇公演が徐々に再開しつつある中、東京都新宿区の劇場、新宿シアターモリエールで集団感染が起こった。発生源は、6月30日から7月5日まで開催された舞台「THE★JINRO~イケメン人狼アイドルは誰だ!!」。現時点で出演者、観客など63人が感染し、濃厚接触者は約850人に上る。演劇関係者からは「感染対策がずさんだったのでは」という厳しい声が上がっている。
この“舞台クラスター”が起こった翌日、東京都渋谷区のPARCO劇場で行われた三谷幸喜作・演出の舞台「大地」で、主演の大泉洋氏ら名だたる俳優陣が迫真の演技を披露。カーテンコールでは神妙な面持ちで観客席に一礼した。PARCO劇場は7月1日より、三谷幸喜作・演出の3作品3連発公演第1弾「大地」の上演が開始し、自粛明けで新たな一歩を踏み出したばかり。演劇界で先陣を切った公演再開のため、業界内での注目度も高く、チケットは即完売。「やっと劇場で芝居を見られる」と観客も喜びをかみ締めていた矢先だった。
実は、記者はちょうど新宿でのクラスターが報じられる数時間前、PARCO劇場に取材していた。PARCOで演劇事業プロデューサーを務める毛利美咲氏は「一人でもやりたくない人がいたら中止にするつもりで、三谷さんと話した。(感染対策は)できることを全てやった」と公演再開に踏み切った並々ならぬ思いを語っていた。
舞台をやるには最低4週間、稽古が必要だ。自粛解除後すぐに再開するために、緊急事態宣言下に手探りではありつつも入念な準備をした。一例を挙げれば、100人を超えるキャスト・スタッフ全員が、5月末に抗体検査を行い、陰性と診断された上で稽古を実施している。
公演が開始してからも、座席の間引きや検温、アルコール消毒などはもちろんのこと、靴の裏の消毒や最大限の換気まで徹底した感染対策が行われていた。そんな決死の覚悟をもって公演を再開している演劇人たちにとって、今回の集団感染は、たまったものではないだろう。
新宿でのクラスター報道後、稽古を再開したばかりの演劇関係者にコメントを求めたところ、「様子を見つつようやく動き始めたところなので、感染対策にはみんな相当気を使っている。一部の関係者の甘い対応で、演劇業界全体のイメージが悪くなるのは勘弁してほしい」と嘆いていた。