主催全試合を入場料無料に――。さいたまブロンコスの運営体制からスポンサーシステム、チームカラーにいたるまで、さまざまな変革を進めてきた池田純氏だが、開幕まで1カ月を切ったこのタイミングで、スポーツビジネスで最も重要な「モノサシ」を否定する一手を打つという。その狙いとは何か。そこには単なるフリーミアムというマーケティングの手法を超え、未来型のエンターテインメントビジネスのモデルがあった。
コロナ禍によって変わった「お金の稼ぎ方」
2021年1月、バスケットボール男子B3リーグの2020-21シーズンがいよいよ開幕します。新生さいたまブロンコスにとって新たな船出となるシーズンのスタートです。私はこのシーズンに臨むに当たって、ある重大な決断をしました。主催全試合の入場料を100%無料(*コロナ対策のために発券が必須になり、260円程度のシステム利用料と発券手数料はお客さま負担になってしまいますが)にするという決断です。正式発表はこれからになりますが、その理由について、順を追って説明したいと思います。
私はコロナショックによって時代は大きく変わったと感じています。そして、コロナ禍が過ぎても、その変化は、特にこの間に進化し当たり前になったことはもう元には戻らないだろうと考えています。ビジネスにおける最大の変化は「お金の稼ぎ方」です。
例えば、エンターテインメント界では有名芸能人が次々にYouTubeチャンネルを立ち上げ、無料で動画を配信しています。お笑いタレントがトークやコントをテレビ番組のようなクオリティーで届けたり、プライベートを見せることがご法度だったアイドルが、自宅の映像を見せたりしています。自分たちの「売り」、つまり自分にとって最も価値のあるものを無料で提供する。それによって人々の関心を集め、別のところでお金を稼ぐ。そんな稼ぎ方が普通のことになったのだと思います。
言い方を変えれば、本当に価値のあるものを提供しないと人々の関心を集めることができない時代になったということです。コロナショック以降、人々の興味関心の幅はかなり狭くなったというのが私の実感です。多様化といえば聞こえはいいですが、確実性が求められるようになったのは、実際は生きていくことに必死で、気持ち的にも金銭的にも余裕がなくなったという背景があると私は考えています。