フランスにとってもEU統一は夢だった

 EUのもう一つの盟主であるフランスについても見てみましょう。

 2018年11月に起こったカルロス・ゴーン氏の逮捕劇は、彼が日産をルノーの完全子会社にして日本企業である日産の利益をフランスに持ち出すという発想があったからだ、などとも言われました。

 ゴーン氏はフランスの日産工場の除幕式でマクロン大統領に絶賛されました。ゴーン氏の解任後もルノーは日産の経営判断に影響を及ぼし、2020年6月には西川廣人社長の後任に、取締役会が選ぼうとした関潤副最高執行責任者(日産副COO)ではなく、内田誠事務執行役員(現日産社長)を据えるように求めたと報道されています。

 日産は2019年度通期決算で6712億円の最終赤字となりました。それでも2019年上期の末には10円の配当を行いましたし、2018年度も大幅減益だったにもかかわらず上期・下期ともに28・5円の配当と、計57円の年間配当を行っています。つまりどんなに経営が厳しくても、ルノーは日産からしっかりと配当を吐き出させているのです。もちろん配当のメリットは日本人株主にもあります。しかし日産の株式の43・7%を握るルノーにとっては、日産そのものよりもルノーのある本国、つまりはフランスを利することを優先する経営と言えるでしょう。日産の取締役会はこれに対して無抵抗と言わざるを得ません。

 EUは2020年7月、7500億ユーロの復興基金を創設し、そのうち5000億ユーロをEU内の経済危機に直面する国に贈与する計画を発表しました。また欧州中央銀行(ECB)はさらに6000億ユーロを積み上げて計1兆3500億ユーロとしました。

 フランスも歴史を遡れば、ナポレオンが欧州制覇の夢を抱いた過去があります。ドイツが神聖ローマ帝国やドイツ帝国の夢を描いたように、フランスにもナポレオンの夢があったのです。

 この両国が新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、ついに財政的な部分でもEUを一体化することに踏み切りました。ドイツのメルケル首相は、「もはや一国では主権を維持できない」とつぶやいたと言われています。

 EUの盟主はドイツ、ECBの第2代と第4代の総裁はフランスです。これは政治はドイツ、金融はフランスという、EU運営の役割分担が固まりつつあることを意味しています。欧州委員会(EC)本部はベルギーのブリュッセルにありますが、2019年からはベルリンとパリで両国首脳の会談によってすべてが決まるようになっています。

 EUはついに財政を統合し、実質的な統一大陸の欧州国に向かっていくと私は考えています。