膠着続くEUと英国の通商交渉
歩み寄りは実現するか
英国とEU(欧州連合)の通商交渉は膠着が続いている。英国のジョンソン首相は9月上旬、EU首脳会議(サミット)が開かれる10月15日を交渉の期限とし、英国が望む形で自由貿易協定(FTA)が結ばれない限り、予定通り年内で「移行期間」を打ち切ってWTO(世界貿易機関)のルールに基づく通商取引に移行すると明言していた。
しかし10月15日を過ぎても、両者の交渉は続けられた。年明けからFTAを発効するためには、少なくとも11月中に交渉で合意し、12月中にEU27ヵ国それぞれの国会で承認プロセスに入る必要があった。にもかかわらず交渉は合意に達せず膠着が続き、12月13日の電話協議でも英国とEUは交渉の継続で合意するだけにとどまった。
EUの立法府である欧州議会は、EU各国での批准プロセスから逆算すれば12月20日までに交渉で合意することが望ましいと英国に圧力をかけた。しかし合意には至らなかったばかりか、新型コロナウイルスの変異種が猛威を振るい始め、英国の首都ロンドンが再び封鎖(ロックダウン)されるなど、交渉の不透明感はさらに強まっている。
とはいえ、双方が何とか新たな通商協定の締結を望んでいるからこそ、期限の目前でも交渉は続いている。誰もが交渉の決裂、つまりノーディールを望んでいないことは明らかだ。ノーディールも止むなしと主張し続けてきた英国のジョンソン首相でさえ、そのトーンを弱めている。EUのフォンデアライエン欧州委員長も、交渉の進展を強調している。
こうした交渉の推移から判断すれば、ノーディールの可能性はゼロではないものの、やはりそれはブラックスワンだろう。何らかの形で交渉は合意に達すると考えられるが、それが英国の望む形でのFTAになるかどうか定かではない。最大の争点である競争条件と漁業権、それに拘束力の問題に関してEUがどれくらい歩み寄るかが焦点となる。
「感情的」な英国と
「独善的」なEUのせめぎ合い
ジョンソン首相が率いる与党・保守党は、前回19年12月の総選挙で、非常に「感情的」な政党に性格を変えてしまった。親EU派の議員が引退、落選、ないしは党公認を得られなかったためである。新型コロナの感染拡大という未曽有の危機を受けてもなお、ジョンソン首相が強気の交渉を展開してきた背景には、こうした保守党の変質がある。