新型コロナウイルスの感染拡大で混乱の極みにある世界。だが実は危機はそれだけではありません。気候変動の影響が、さらに欧州に追い打ちをかける可能性があるのです。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しましょう。連載9回目となる今回は、今後の世界秩序に大きな影響を与える気候変動について。温暖化が深刻化すれば、大量の難民がアフリカから欧州へと押し寄せることになります。

2021年以降、気候変動でアフリカから大量の難民が欧州に押し寄せるPhoto:adobe Stock

気候変動でアフリカから大量の難民が欧州へ

 アフリカや中東からEUに来た移民の数は2017年で240万人でした。年間200万~300万人の移民は、EU全体で人口5億人のうちのわずか0.5%にすぎません。

 移民の影響は、全人口に占める割合よりも絶対数で見るべきだという指摘もあります。

 事実、英国がEU離脱を考える一因になったのは欧州大陸を経由してきた移民であり、絶対数としての移民の数でした。

 そして今、EUにはこれまでの移民問題を上回る難題が浮上しつつあります。それが気候変動に伴うアフリカ民族の大移動です。

 世界の資源研究で有名な世界資源研究所(WRI)は、気候変動の影響で2030年までに1億人が新たな超貧困に陥ると試算しています。またWRIと共同研究している世界銀行と国際復興開発銀行(IBRD)が2015年に発表したレポート『Shock Waves』の中では、気候変動をうまくマネジメントできた場合、2030年の超貧困人口は1億4300万人、二酸化炭素排出量を放置した場合は9億人になると予想しています。

 超貧困とは1日当たりの摂取栄養量が70キロカロリー以下の状態を指します。カップ麺1つで500キロカロリーはありますから、この栄養量がいかに少ないかが分かります。

 水不足の問題は、人間が飲む水の量と共に食料になる作物や動物などが必要とする水の量にも影響を及ぼします。水がなければ人間も生きていけないし、人間に必要な食料も育ちません。それが超貧困という状態なのです。