過去にない大統領選挙の結果、バイデン勝利の確率が非常に高まっています(しかしトランプ陣営はまだ負けを認めておらず、1876年以来の下院での投票に持ち込まれる可能性もわずかに残っています)。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。主に共和党の立場で、大統領選挙などの分析や応援もしてきました。トランプ陣営の大統領選挙アドバイザリーボードも務め、米国人のリアルな思考を理解し、米国と世界を動かす原理原則や、彼らが実践しようとしている新しい世界のルールについて日頃から肌で感じています。これら先、世界はどう変わるのか、本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しましょう。連載3回目となる今回は、2021年から始まるであろうバイデン新政権でも続く「アメリカ・ファースト」が世界に与える影響についてご紹介します。

バイデン新政権でも続く「アメリカ・ファースト」の破壊力Photo: Adobe Stock

米国は新しい重商主義で世界を変える

「米国支配による平和」を意味する「パックス・アメリカーナ」という言葉は、歴史的には第二次世界大戦が終わった1945年に使われ始めました。

 当時の米国は戦後の復興援助計画「マーシャル・プラン」を実施して欧州を援助する一方で、太平洋戦争に負けた日本の戦後復興はアジア諸国の中でも最後に回しました。

 米国が戦争で傷んだ世界各国の中から復興させる国や地域を選び、優先順位を付けて支援をしていったのです。まさに米国の力によって世界平和が保たれているということで、「パックス・アメリカーナ」という言葉が使われていました。

 歴史を振り返れば、古くはジュリアス・シーザーなどが活躍したローマ時代を指して「パックス・ロマーナ」、あるいはチンギス・カンの子孫がユーラシア大陸のかなりの部分を支配したことを指して「パックス・タタリカ」と呼ばれてきました。

「パックス・アメリカーナ」とは世界史においてはローマ帝国、モンゴル帝国に続く3回目の世界の支配者が米国であるということを意識した言葉です。もっとも、その後は米国とソ連の間で冷戦構造が誕生したことで、「パックス・アメリカーナ」は形を変えていきました。

 1945年に英国の作家ジョージ・オーウェル氏は『あなたと原子爆弾』という作品の中で「冷戦」という言葉を出し、1946年には英国の首相も務めたウィンストン・チャーチル氏がかの有名な「鉄のカーテン」の演説をしました。

 これと前後して米外交官のジョージ・ケナン氏が勤務先のモスクワ大使館から長文の「ソ連封じ込め戦略」を打電し、その戦略がトルーマン政権内で本格的に検討されるようになりました。

 1947年になると、ハリー・トルーマン第33代大統領は、第二次世界大戦で国力を消耗した英国に変わり、米国がギリシャとトルコを守ると宣言しました。同じ年には欧州の戦後復興計画「マーシャル・プラン」も発表されました。

 いずれも、背景にあったのはソ連を中心とした共産主義勢力の台頭です。

 最終的に1949年にソ連が核実験を成功させたところで、世界は「パックス・アメリカーナ」が終わったことを理解しました。そして「パックス・ルソ・アメリカーナ」(ソ連の存在を認めながらの米国支配による平和)という時代に入ったのです。

 米ソ冷戦時代を含めたパックス・ルソ・アメリカーナ時代、米国は世界の安全保障や経済の安定に積極的に関与する強い意志を持っていました。

 米国は日本の経済復興はアジア諸国の中でも最後にするという方針でしたが、1950年に始まった朝鮮動乱で状況は一変しました。日本に朝鮮特需の恩恵を与えると同時に独立国としての国連加盟を認め、日本を共産主義に対する極東の防波堤とすべく、日米安全保障条約を締結して西側陣営に組み込みました。

 日本は西太平洋における米国の“代貸”となり、日本列島そのものが米軍基地の役割を果たすようになったのです。同時に米国の肝入りで経済復興を加速し、やがて世界第2位の経済大国に成長しました。