オキシトシンの分泌ができないマウスは
「育児」を放棄してしまう

 オキシトシンの多様な効果のうち、広く知られる中枢機能は、母性行動。オキシトシンの分泌ができないように遺伝子改変された母マウスは、なんと子育てや授乳を放棄してしまうそうだ。

 子ども側から見ると、幼若動物の母親との触れ合いは、社会的コミュニケーションを司る神経系の発達に関与している。マウス・ラットの実験で1週間離乳を早めるだけで、それらの動物は成長の遅滞は見られないにも関わらず、成体になってから高い不安とストレス反応、育児能力の低下を示すらしい。幼若期の親との触れ合いが希薄であると、成長後のコミュニケーション能力、育児能力が低下し、情緒が不安定になるという報告である。

 近年、児童相談所で増加する虐待相談対応件数が、コロナ禍でさらに加速している。

 まさにストレス社会の反映である。被虐待児は、他者の表情を読み取ることや、自分の感情を制御、調整することが苦手だ。共感性の発達にも困難が生じる。前島特任教授はこれらの現象にオキシトシンが大きく関与していると考え、世の親御さんたちに、「子どもの脳の健康な発達には愛、つまりオキシトシンが必要です。イライラした時こそ深呼吸して、子どもを抱きしめてほしい。親子でオキシトシン分泌を増やし、この困難を乗り越えましょう」と呼びかける。

 相手と触れ合う行為はオキシトシンの分泌を促進する。「夫婦の触れ合い」はオキシトシンの分泌を増やし、絆や信頼を高める。夫婦の触れ合いが少ないと、オキシトシンの効果が発揮されない。お互いの行動に対して許容範囲が狭くなり、夫婦間の行き違いを増やしてしまう。

「長年連れ添ってお互い空気のような存在になってしまっている。このような時にも、ぜひ夫婦でお互い手を広げ、ハグしてみてほしい。照れくさいかもしれませんがお勧めです。オキシトシンが分泌されて安心感・信頼感を持てるはずです」(前島特任教授)

前島チームによる世界初
夢の肥満薬の開発へ高まる期待

 近年、日本を含む多くの先進国で肥満の人口が増加している。

 肥満は糖尿病、高血圧、高脂血症をはじめ、多くの疾病を引き起こし、深刻な問題となっている。肥満はエネルギー摂取量が消費量を慢性的に上回ることで引き起こされる。エネルギー摂取、つまり摂食(食べること)とエネルギー代謝研究は、ますます過熱する研究領域である。

 前島特任教授は、これまで摂食抑制ホルモンとしてのオキシトシンを研究領域の中心としてきた。オキシトシンをマウスの中枢および皮下、腹腔内に投与すると、摂食量、体重、内臓脂肪の減少、そして脂肪肝、耐糖能の改善、エネルギー消費量の増大が見られた。オキシトシンは直接脂肪細胞に作用し、脂肪分解を促進する。また、すい臓のβ-細胞に作用しインスリン分泌を促進する。オキシトシンの鼻からの投与でも摂食量の減少がみられた。