中国の指導者は――とりわけ周恩来さんにその傾向が強かったけれども――過去は過去として新しい日中関係を作ろうと。アジアで唯一西洋に伍する国になった日本という国に対する敬意を持って、関係を修復し発展させたいという気持ちを持っていた。それに対して当時の日本人たちも、やはり「中国を侵略して申し訳なかった」という気持ちを持っていた。田中角栄総理もそうだったし、大平正芳外務大臣はその点に対して、一番強い意識を持っていた。一方で、憎しみだけではなく日本に対する敬意を持ち、他方、中国に対して申し訳ないと思っている指導者が、1970年代の国交正常化を実現し、その後の日中の協力関係を発展させていったのです。

 その後、世代交代が進み、そうした気持ちを自分の皮膚感覚として感じられない人たちが増えてきて、双方のすれ違いや感情的な対立が起こってきた。天安門事件を契機に1990年代になってくると、中国では愛国主義教育が行われ、中国は弱かったから悲惨な歴史を経験した。だから我々は強くなり、大国にならないといけないということを国民に教育していく。その時の重要な教材のひとつが日本の中国侵略であり、それに伴う様々なエピソードを子どもたちは教え込まれていくわけです。当然、日本に対するマイナスイメージは増幅されていく。

 それから日本の方も、贖罪意識、中国に対して悪いことをしたと思わない世代がどんどん増えてくる。中国から何度も謝罪を求められて、「自分たち自身はやってないのに……」と、国民感情的にも反発が強くなってくる。そうこうしている内に、日本は経済では世界のナンバーツーだということを拠り所・誇りにしていたのに、中国の方が日本を追い越した。

 こういう出来事も起こって、今はお互い相手をどう捉えたらいいかが分からない状況に陥っている。これが、日中のこの40年間を見た時の根本を流れている時代背景、社会心理構造の変化ではないかと思います。

国民感情や雰囲気が外交に
多大な影響を与える時代に

――お互いに相手をどう位置づけたらいいか試行錯誤していることによって、いろいろな衝突が起こっている。あまり単純化するのはよくありませんが、中国は大国になって傲慢さが出てきて、一方、日本はそれに対する、いわく言い難いやっかみみたいものが出ているのでしょうか?

 私は、以上に述べてきたような大きな時代背景の変化によって、国民感情が増幅するようになったと思っています。