雇用調整助成金Photo:PIXTA

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、雇用調整助成金の手続きがスムーズになり支給が広がっている。だが、守られるのは主として正規社員であるため、雇い止めによる非正規社員の雇用の減少は続いている。また、特例によって休業手当の金額が失業手当を上回る逆転現象も起きている。雇用の流動性を抑える懸念もあり、功罪の両面が問われるべきだ。(昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

“雇用維持”によるマイナス面にも配慮を

 厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年12月末に期限を迎える雇用調整助成金の特例措置について、仮に打ち切れば失業者が増えかねないとして、そのままの形で21年2月末までの延長を決めた。この特例措置は、21年3月以降、雇用情勢が大きく悪化しない限り、6月までに「リーマンショック時並み」に段階的に縮小としている。

 企業の雇用保障慣行を促進するために設けられた雇用調整助成金は、短期的な不況時の雇用維持にはよく機能し、20年4月のピーク時の休業者数は600万人に達した。仮に、19年平均を上回る水準の休業者が、すべて失業者として顕在化していれば、日本の失業率は一時的には9%に達しており、大きな社会不安を引き起こしていたといえる。

 しかし、景気が回復すれば人の移動が増えて感染リスクが高まり、再び自粛が求められて景気が後退するということが繰り返されるコロナ不況は、景気循環的な不況と比べて終わりが見えない状況にある。政府からの補助金で、企業が休業者をそのまま抱え続けることで、人手が不足する分野に労働者を円滑に移す機能が妨げられるマイナス面が、次第に大きくなることへの配慮も必要であろう。