日立化成買収の昭和電工の悲惨
写真:毎日新聞社/アフロ

日立製作所による非中核事業の聖域なき整理の象徴である日立御三家・日立化成の売却は、日立に潤沢な成長資金をもたらしたといえる。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の真っただ中ということもあり、買収した側の昭和電工にとっては、巨額買収が波乱の幕開けになりかねない状況だ。日立についての緊急連載(全3回)の最終回では、日立化成を巡る「悲喜こもごも」を探った。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

>>緊急連載第1回『日立が海外家電事業の主導権喪失、協業失敗なら「本丸」家電売却も』から読む
>>緊急連載第2回『日立「次期社長レース」が大詰め、日本勢vs欧州勢の熾烈な争い』から読む

日立化成は最後まで“孝行息子”
約3000億円の売却益を日立にもたらした

「日立製作所はうまくやったけど、昭和電工はかなり厳しくなってしまった。メインバンクのみずほ銀行は頭を抱えているでしょうね」

 ある金融機関幹部はそう声を潜める。総合化学メーカーの昭和電工が清水の舞台から飛び降りる思いで臨んだ日立化成(現昭和電工マテリアルズ)の買収のことだ。

 2010年に社長のバトンを受け継いだ中西宏明氏がデジタル化のソリューション事業にシフトしてからというもの、日立は景気や市況の影響を受けやすい製造業系の事業を非中核事業として聖域なく売却してきた。

 その象徴が日立金属、日立電線(13年に日立金属と合併)と並び、日立グループの「御三家」といわれた日立化成の売却だ。

 売り先は冒頭の通り、昭和電工だ。昭和電工が買収を発表した19年12月18日時点の日立化成の時価総額は、昭和電工の約2倍。まさに小が大をのむ形であり、のみ込まれた側の日立化成の社員はさぞや複雑な気持ちを抱いたに違いない。だが、日立にとっては万々歳の売却となったはずである。

 何しろ、昭和電工の買い付け価格は1株当たり4630円だったのだ。これは、12月17日までの6カ月の日立化成株の終値平均価格に、実に37.47%のプレミアムが乗った値であり、日立化成をして「過去に行われた事例との比較においても相応のプレミアムが付されている」と満足せしめた高値といえた。

 日立化成株の51%強を保有していた日立の譲渡価格は約4940億円に上った。これにより、21年3月期には2788億円の売却益(EBITベース)を計上する。

 昭和電工側からすれば、総額約9600億円の買収劇である。売上高1兆円に満たない昭和電工の思い切った決断に、化学業界がざわついたのは言うまでもない。

 日立による日立化成の売却を巡っては、その過程で総合化学大手の三菱ケミカルホールディングスや三井化学も買収候補として挙がったものだ。だが、当初から買収額は「6000億~7000億円に達するといわれ、いくら何でも高過ぎた」(複数の化学メーカー幹部)。化学大手は少なくとも内々では、早々に買収検討の議論をストップさせていたという。

 確かに、日立化成にはリチウムイオン電池の負極材や半導体材料といった強い製品がある。とはいえ、「どうしても欲しいといえるほど利益率は高くなかった」(化学メーカー幹部)。足元では減益が続いており、20年3月期までの3年間の営業利益率は平均すると5.3%だ。

 化学メーカーは事業範囲が広いだけに、日立化成を丸ごと買うとなると、シナジーが出にくい製品が一定数出てきてしまうのも、化学大手に買収を思いとどまらせた要因だったといわれる。

 しかしである。買収金額は“下馬評”の「6000億~7000億円」を大きく上回り1兆円規模までつり上がってしまった。なぜなのか。