Brexitした英国はEUに劣後しない
英国はこの先、米国と組むのでしょうか。
その可能性を探るためにも、まずはBrexit後の英国が本当にEUとの交渉で不利な状況に陥るのかを確認する必要があります。これは今後のEUの将来を占うものにもなるはずです。
Brexitで最も影響を受けるのは、英国の金融関係だと言われてきました。これまでは英国からEU域内に自由に営業できること(これをシングル・パスポートと呼びます)を前提に、ロンドン・シティーに拠点を置いてきた金融機関がその拠点を大陸に移動するからだというものです。
確かにこれによって世界の金融都市としてのロンドン・シティーの存在感は、以前より見劣りするようになったかもしれません。ただ逆に捉えれば、Brexitが国民投票で決まってからもう4年が経ち、移転する必要のある金融機関は既に本部機能を英国から別の国に移しています。つまりこれ以上、傷が広がることはないのです。
そして金融以外の産業では、実は英国はEUよりも強い立場にあるというのが現実なのです。
その具体的な根拠をこれから示しますが、その前にまず英国とEUを比較して主張の正しさを確認する上で必要なポイントを押さえておきましょう。
一般論として、外交交渉には「Level Playing Field(LPF=共通の土俵)」、つまり競争条件を平等にするという前提があります。もっともEUがBrexitを含むこれまでの交渉で英国に要求してきたのは、LPFに反する不平等条約のようなものでした。
貿易交渉とは別ですが、例えば地球温暖化問題についてはEUが将来、炭素税を採用したり排出権取引制度を変更したりすれば、英国も同様の対応を取るように求められています。しかし本来、地球温暖化対策のためにどんな政策を打ち出すかはそれぞれの国が決めることです。EUは自分たちの方が強いと思っているから、EUで決めたことを加盟国に要求してきたのです。これは主権国家をバカにした話とも言えます。
また自由貿易協定(FTA)の本質は、非加盟国を差別することにあります。非加盟国がデメリットを受けることを前提に、加盟国がメリットを享受するのがFTAの本当の狙いです。
この先、英国はどうなるのでしょうか。EUを離脱し、経済的な打撃を受けるのは英国だと思っている人が大半なのではないでしょうか。
しかし、英国にとってみれば、これからは米国など別の国とFTAを結べるようになります。
実際、米国側は英国がEUから輸入していた分の輸入元を米国に変えれば、喜んで英国とFTAを結ぶはずです。コロナ禍で米国経済も打撃を受けている最中、英国が新たな米国製品の輸出先になるのですから、きっと諸手を挙げて歓迎するでしょう。つまり英国のBrexitの成否のカギを握っているのは米国なのです。