米国の大統領選挙が終わり、2021年からはジョー・バイデン新政権に移行する(厳密にはトランプ陣営は負けを認めておらず、1876年以来の下院での投票に持ち込まれる可能性がわずかながら残っている)。新体制に変わって、アジアの地政学はどう変わるのだろうか。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しましょう。連載7回目となる今回は、米国と中国という大国の間で揺れ動く朝鮮半島の行方について解説します。
朝鮮半島は統一しても米国と中国の緩衝地帯に
ここでは、韓国と北朝鮮をまとめて「朝鮮半島」と書きます。それは早晩、分断中のこの2つの国が、実質的に統一国家として統治される方向にあると私が予測しているからです。
私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で詳細に解説していますが、金正恩朝鮮労働党委員長はもはや米国などに動きを捕捉され、捕らわれた“籠の鳥”になりました。
「2019年10月、金委員長は2回の脂肪吸引手術を受け、その際の不備で心血管に血栓ができた」。真実は定かではありませんが、そんな笑い話のようなエピソードが米国にまで届いてきました。それもトランプ政権は金委員長がどこの病院に入っているのかも偵察衛星で確認していると言われています。
朝鮮半島の専門家たちの情報を合わせてみると、2019年末に開催された朝鮮労働党・第7期中央委員会第5回会議では、金委員長の妹の金与正が後継指名され、金委員長は2020年元日の「新年辞」を実施しませんでした。
日本のメディアも取り上げていますが、2020年1月下旬にはフランスの医師団が北朝鮮入りして金委員長を治療したとも報じられました。同年4月15日の太陽節の礼拝にも、金委員長は出席しませんでした。この頃から彼の重体説や脳死説、植物人間説などが世界のメディアで積極的に報じられるようになったのです。
その後、北朝鮮のメディアは金委員長が同年5月2日の順川肥料工場の完工式に出席した映像を流しました。しかし専門家たちは、この映像に映っていたのが金委員長の替え玉だと分析しました。本書が出版される頃にはより正しい事実が明らかになっているはずです。
一方、2020年6月には、韓国の脱北者が北朝鮮を揶揄(やゆ)するビラを風船でまいたことを理由に南北朝鮮のホットラインが分断されました。さらに北朝鮮は南北軍事境界線沿いの都市、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破しました。
2020年8月現在、金委員長が妹にかなりの権限移譲をしたことや新たな死亡説や脳死説などが米国のメディアで飛び交っています。こうして取り沙汰されること自体、北朝鮮がもはや謎の国ではなくなったことを意味しています。
それでも韓国の北朝鮮に対する融和姿勢は引き続き変わりません。1950年代の朝鮮動乱以来、両国が今ほどの接近状態にあることはありませんでした。