オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。『ローカルメディアのつくりかた』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。今回取り上げるのは、寄付型ウェブメディアの先駆け「greenz.jp」。PVではなく「読了数」を追い、読者のコミュニティ化にいち早く取り組んだ“先駆者”に、これまでの軌跡と、これからのメディアのあり方を伺いました。
PV競争からいち早く抜け出した、非営利メディアの先駆け「greenz.jp」
非営利型ウェブメディアの先駆けとして2006年に創刊されたウェブマガジン「greenz.jp(グリーンズドットジェイピー)」は、バナー広告がなく、取材記事やコラムなど読み物原稿で構成されるシンプルなウェブマガジンだ。今やインターネット広告費がテレビを除く4マスの紙媒体全体の広告費を上回るなど市場規模が拡大し、無数のウェブメディアが乱立しているが、greenz.jpは、この14年の間、度重なるリニューアルを経ながらウェブメディアのひとつのモデルとして走り抜けてきた。
その中でも、2016年のリニューアルで、SNSでのシェアの数を競うのではなく、ひとつの記事を最後まで読み終えたという「読了数」という指標を生み出したのは記憶に新しい。広告依存型のメディアは、紙もウェブも関係なく、単純に数値として換算することしかできない発行部数やPV数で評価したがるが、それに対して読了数は、ひとつの記事を最後まで読んでもらった人のコミットメント(熱量)を測ることができる。広告依存型ではなく寄付型・非営利型メディアだからこそ取り入れる価値のある指標だと思う。
そんなgreenz.jpが10年以上にわたって模索しつづけるウェブメディアのあり方についてより詳しく知りたいと思い、今回はgreenz.jpを運営するNPO法人グリーンズのビジネスアドバイザー兼O&G合同会社代表の小野裕之さん、同じくNPO法人グリーンズCOO/事業統括理事の植原正太郎さんに話を伺った。
greenz.jpを支える4つの収益源
当初は代々木公園でアースデイ東京を手がけるNPO法人BeGood Cafe のメディア事業として立ち上げられたgreenz.jpだったが、greenz.jp単体で収益をあげられるメディアに成長させたいと考えていた編集長の鈴木菜央さんらが同団体から独立し、フリーランスの集合体である有限責任事業組合(LLP)を設立。その後、株式会社ビオピオとして組織変更される際に、小野さんがジョインする。主にgreenz.jpの収益化を目指して経営全般を見る立場としてだったという。
「グリーンズの主な収益源としては、寄付収入と、greenz.jpのコンテンツを学びのコンテンツに変えて受講料をいただく教育事業『グリーンズの学校』、求人広告を1本単位でいただく『グリーンズ求人』、あとは企業や自治体とのコラボ。主にこの4つです。僕はこの企業や自治体とプロジェクトを作るのが得意だったので、そこを押し出した経営をやってきました」(小野さん)
2009年ごろからグリーンズに関わって、NPO法人化を経て企業や自治体とのプロジェクトを開拓してきた小野さんは、2016年ごろからジュエリーブランドSIRI SIRI、おむすびスタンドANDONの経営、2020年にオープンした下北沢のBONUS TRUCKを運営する散歩社を立ち上げるなど個人的な活動が増えてきた。そこで、現在は役員(理事)を譲って外部のビジネスアドバイザーとしてNPO法人グリーンズに関わっている。
一方、現在グリーンズのCOOを務める植原さんは、学生時代、greenz.jpのライターインターンとして入ったのがグリーンズと関わる最初のきっかけだったという。卒業後はSNSマーケティングの会社で2年半ほど働いていたが、ソーシャル系の仕事がしたいと思っていたタイミングで、ちょうど小野さんから声がかかり、グリーンズにジョインした。
「2012年にNPO法人化して寄付会員事業が始まりましたが、僕は2014年から寄付会員事業を担当するスタッフとして入りました。最初の3年は読者の方にいかに会員になってもらうか、とか、オフ会などで盛り上げる、コミュニティマネージャー的な仕事をしていました。その後は小野さんが開拓した企業、自治体とのプロジェクトを次第に担当することになり、小野さんが外部アドバイザーになる段階で経営全般を引き継ぎました」(植原さん)