一見して無関係にも思える「知性」と「体力」。スタートアップの経営において2つのキーワードが合体したとき、どんなメリットを期待できるのでしょうか。グロースキャピタルの視点から、「知的体力」の重要性について考えます。
解決できそうにない問題の答えを考え抜く粘り強さ
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):私たちシニフィアンは、グロースキャピタル「THE FUND」を運営するにあたり、「ペンタグラム」と呼ぶ項目を掲げています。レイトステージのスタートアップの成長性を考える際に重視する5つのポイントですね。
今回は、ペンタグラムの内、トップマネジメント、つまり経営者、CEOの「知的体力」について考えてみたいと思います。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):単なる頭の良さとは違うという概念ですね。小頭が良ければ瞬間的に矛盾を見つけたり、ベターな考えを思いついたりするかもしれません。そうした瞬発力も重要ではありますが、その程度では激しい競争環境下では通用しないでしょう。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):「体力」という言葉が表す要素がいくつかありますが、まずは単純に1つのことを深く考えるという観点ですね。いろいろな問題が次々と生じる中で、それらの重要性を適切に見極めて、本当に大事なことについては長く深く考え抜くことです。
村上:何度考えてもなかなか乗り越えられない難しい問題に対して、「もう、こうするしかない」と、半ば根性論や「賭け」で乗り切ろうとする時もあるでしょう。ただ、やはり考え抜かないと乗り越えられないことも少なくない。「知的体力」は、解けそうもない問題に粘り強くしがみついて考え尽くせるかということですね。
朝倉:この点、「体力」にはタフさといったニュアンスを込めています。
村上:なかなか解決できない問題でも、他に妙案がないか動きながら考える。足を使い、いろいろな人に話を聞き、自分で揉む。実際に「体力」も使うと思うんですね。そうした行動を通じて、ベターなソリューションを探し求め続けられるか、自分の中で考え尽くせるかということを指しています。
名経営者も「頭がちぎれるほど考えよ」「『できる』と100回言え」
朝倉:ソフトバンクの孫正義さんの言葉として「脳がちぎれるほど考えよ」というフレーズがよく紹介されますが、それくらいギリギリまで1つの物事を考え抜くことは簡単ではありません。
村上:自分の足で集めた情報についてしっかり考え尽くすことで、経営戦略や意思決定の質が上がっていく。こういう素養がある方であれば、積極的にインプットを重ねた情報をさらに揉み、より良いソリューションにつなげることができる。我々のような外部からエンゲージメントするステークホルダーとの相性も、非常に良いのではないかと考えています。
小林:村上さんがフットワークという話をされましたが、多方面から情報を得るということですね。ある人の話を少し聞いただけで分かったような気にならず、徹底的に自分で見聞きして得た情報を判断していく行為は、トップマネジメントに必要な要素として別途挙げている、柔軟さにも通じることかもしれません。
朝倉:何かを始める前の段階の情報や予見できる内容には限界がある。スタートアップに限らず、始めてみて初めて分かることって多々あるわけじゃないですか。もともと世の中にあった情報を基にすると「多分こうだろう」と想定していたけれど、取り掛かって初めて、全然違う業界の構造を見出してしまったとか。
小林:経営者はさまざまなファクトに対して、誠実に向き合い続けなければならないということでしょう。そうした継続性と情報に対するしつこさ、執念のようなものが「体力」として問われるのだと思います。
村上:これも何度となく耳にする孫さんのエピソードですが、「『できない』という答えを求めているのではない」という話ですよね。
朝倉:日本電産の永守重信さんが過去の講演で話していたエピソードですが、「できない」と言う人には「そこに立って『できる』と100回言え」と。結局「1000回くらい唱えたら、できるような気がしてきました」という話になるらしいです。
「ほんまかいな?」と感じる笑い話みたいなエピソードですが、そうしたカルチャーの下に結果的に日本を代表する企業ができているのは疑いようのない事実です。今だと、「知的体力」への執念を社員に強要することはなかなかできませんが、経営者が自らに課すのは当人次第です。
会社も事業も永遠にブラッシュアップし続けなければならない
村上:「できない」という答えは誰でも出せる。「できない」と思ったことをやるのが仕事だということでしょう。
朝倉:事業を進める中ではもちろん、思いがけないオペレーション上の落とし穴があったとか、いろいろな発見があるはずです。それらを順次、フィードバックして事業を続けなければならないわけですよね。1回考えて思いついたことをやったら終わりではなく、会社も事業も永遠にブラッシュアップし続けなければならない。
村上:そのためには、できる方法を編み出せるまで考え続けるということ。「できません」「無理です」という答えは捨て、「自分の辞書にそんな言葉はない、考え続けるんだ」と。これはかなり被虐的で、まさに「体力」を要することだと思います。
朝倉:外部からのインプットや、事業を通じて発見した事実について、常に考えて自分たちの事業に活かすといったプロセスを苦とするのではなく、基本動作として染み付いているような方はやはり強いと感じます。
村上:こうした粘り強さは、頭の良さと全然違うんですよね。下手をしたら「これは無理です」と言える人の方が、頭が良いと思われそうですが、「知的体力」がある人は明らかに難しそうなことも「無理」と言わずに考え続けるという、ちょっと変態気質な一面もあるのでしょう。
経営者の資質としては最初に「リーダーシップ」が出てきそうなものですが、そうした背景も踏まえ、経営チームのトップマネジメントに必要な要素の順位としては、あえて最後に「リーダーシップ」を位置づけているということですね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/10/18に掲載した内容です。