多くの経営者とコミュニケーションを取る中で、ふと違和感を抱く瞬間があります。良くも悪くも会社の顔となる経営者の、将来的にネガティブに働きかねない資質を4パターンに分類して考えます。
「プライド系」「隠蔽体質系」「パワハラ系」「自意識系」の4分類
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回はやや緩いテーマですが、いろんな方、特にスタートアップの経営者の方と接する中において「妖気アンテナ」が立つ瞬間について考えようと思います。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まず、「妖気アンテナ」について説明する必要がありますね。
朝倉:社内用語ですが、「妖気アンテナ」とは、人と接していて感じる、ちょっとした違和感や警戒感のことです。「何か、この人おかしいな」という漠然とした感覚。言語化はしづらいけど、何か悪い予感がする。漫画『ゲゲゲの鬼太郎』で、鬼太郎の髪の毛がビーンと逆立つ場面を想像していただければ良いかと思います。
小林:いろんな方と対峙する中で、その瞬間には言語化できないけれど「あれ、これ気をつけたほうがいいな」と思い始めるきっかけのようなものですね。
朝倉:私たちは未上場企業、上場企業への投資を行っていますが、企業を見る際には、事業価値、財務体質など、様々な要素を見た上で評価します。ただ、やはり何よりも外せないポイントが経営者の資質です。そういった点で、非常に感覚的な観点ではありますが、「妖怪アンテナ」には相応に注意を払います。
特に経営者に対して、ふと違和感が湧く瞬間の典型的なパターンを敢えて言語化すると、4パターンくらいに分類できるのではないかと思います。
ひとつ目は「プライド系妖気アンテナ」、2つ目は「隠蔽体質系妖気アンテナ」、3つ目が「パワハラ系妖気アンテナ」、4つ目が「自意識系妖気アンテナ」ですね。
周囲の意見を受け入れられない「プライド系」
小林:適切なプライドはリーダーが持つべき資質の一つですが、私の場合、この「プライド系妖気アンテナ」が立つのは、経営者の自己保身的な傾向や、自信過剰な傾向に気づいた時でしょうか。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):自らの説明と異なる角度から指摘を受けた場合に、耳を傾けるのではなく、頭ごなしに否定するような方の場合、なぜそこまで拒絶反応を示すのか、疑問が湧くような場面に遭遇します。こうしたときにも「プライド系妖気アンテナ」が立ちます。
小林:自分と違う意見に対する許容度の低さが露わになったときですね。
村上:相手の質問に対して、「分かってねえな」と内心苛立っているのが伝わってくるような態度と言いますか……。
朝倉:そうですね。そういう場面で、本当に質問者が「分かっていない」場合もあるのかもしれませんが、受けた指摘が潜在的なリスクを的確に言い当てていたことが後から顕になることも少なくありません。理解が浅いがゆえの質問だったとしても、断定的に「そういうのないですから」だけで片付けられてしまうと、コミュニケーションが成立しません。
村上:万能な経営者は存在しません。どんな経営者も、将来の見通しがわからない中で常に最適な経営判断を模索しなければならず、柔軟性が求められます。
にも拘らず、自分の考えが100%正しいというような凝り固まったプライドを持った経営者に出会うと、資質に対する疑念が湧きます。
事業や経営者自身の成長にとっては、余計なプライドにしがみつかない、柔軟な態度は不可欠です。外部の投資家が会社へのエンゲージメントを進めるうえでも、プライドが高すぎる経営者は、対話がしづらいですから、投資判断にもクリティカルに影響します。
小林:今例に挙げたような、外部からの質問に対して断定的な否定を返す経営者の他に、過剰にディフェンシブに、ロジックを返してくる経営者もいます。
朝倉:ディフェンシブどころか、感情的に怒り出す人もいます。好意的に解釈すれば、事業やプロダクトに対して憑依するほど深くコミットしているから、そのプロダクトの欠陥を突かれると自分のことのように怒り出すのだ、という解釈もできますが。
外部の対話相手はあくまでも事業に関する議論をしたいのであって、誰か個人を責めるつもりはありません。にも拘らず、問題を指摘すると自分が責められたと思って過剰反応してしまい、問題解決に向けて冷静な対話ができない経営者は、対峙するのが困難です。
村上:本当にそうですね。
朝倉:経営者の資質には、その人の出自や、最初の職場での経験が関係している気がします。私はプロフェッショナル系ファーム出身の経営者とは対話しやすいと感じることが多いのですが、それは彼らが、事業について議論する際、ヒトではなくコトについて議論する場であり、課題解決に向けた共同作業だという前提をしっかりと身につけているからだと思います。
都合の悪い質問をはぐらかそうとする「隠蔽体質系」
朝倉:2つ目は「隠蔽体質系妖気アンテナ」ですね。
村上:外部からの質問に対して、ポイントをずらした回答をしたり、対話相手が聞きたいこととは全く違う話をしたりする経営者に対峙すると「答えたくないのかな」「隠してるのかな」と感じることがあります。
対話相手としては、むしろ経営者には、課題をオープンにして議論をしてほしい。課題を隠されると議論が進みませんし、リスクを正しく把握できないまま将来の成長の話をするのは困難です。こういったケースを「隠蔽体質系」と分類しています。
朝倉:「隠蔽体質系」は表面的には表れにくいのが難しいところです。例えば、物腰が柔らかく、話も上手で、好感が持てる人物だが、よく考えてみたら外部からの質問に実質的には何も答えていない、といったケースもよくあります。外形的には判断しづらいですよね。
村上:ダイレクトに「一番心配なことは何ですか」「一番のリスクは何ですか」と尋ねても「特にないです」と回答されることもあります。しかし、成長途上の会社で懸念やリスクが全くないということはありえませんから、何か都合の悪いことを隠しているのではないかという不安が残りますね。
小林:面接と同じで、自分たちを外部にプレゼンテーションするときに、欠点は隠して魅力を強調しなければならないという意識が過剰に働いているのかもしれません。
しかし、スタートアップを支援する人は、誰も、その会社が完璧だとは思っていません。完璧であるはずがないのはスタートアップに限らず、上場企業も然りですよね。
村上:経営が本当に苦しい時は、社内外問わず、胸襟を開いて弱みを吐露できなければ解決策を見つけられません。経営者の中には「リーダーは常に強くなければいけない」というメンタリティが強すぎて、知らず知らずのうちに隠蔽体質が身に付いてしまう人もいるのかもしれません。
小林:経営者に限らず、会社に対して「隠蔽体質系妖気アンテナ」が働くケースもあります。例えば、KPIをサッと開示してくれない会社ってありますよね。ローデータでいいからKPIの推移が見たい、とお願いしたのに、時間をかけて複雑に加工されたエクセルしか見せてくれないケース。
朝倉:KPIがすぐに出てこないのは、そもそもきちんとモニタリングしていないということか、モニタリングしていても見せたくない、見せる気がないということですからね。
小林:そうですね。もしかしたら「視認性高く整えてから見せたい」という善意の表れなのかもしれないですが、KPIのような基本的な数字がサッと出てこないときは、警戒せざるを得ません。
コミュニケーションのコントラストが激しい「パワハラ系」
朝倉:3つ目は「パワハラ系妖気アンテナ」です。
小林:これはトップが1人でいるときではなく、ナンバー2以下の人と一緒に出てきたときに如実に感じることが多いですよね。
トップの周りに大勢いても、ナンバー2以外の人は何もしゃべらない、あるいは発言するときは必ず、話す前にトップにお伺いを立てるような仕草を見せる、しかも、話し始めた途端にトップが制止する、そういうパターンはよく目にします。
朝倉:外部の人間とのコミュニケーションにおけるトーンと、社内・部下とのコミュニケーションにおけるトーンのコントラストがはっきりしている人が多いですよね。外部にはものすごく物腰柔らかな丁寧な対応なのに、相手が社内の人となれば途端に高圧的な態度になるケース。
小林:他には、CCに多数の人を入れて送ったメールに対して、CCを全部外して私信で返信してくる人が多い会社に対しても「パワハラ系妖気アンテナ」が立ちます。上司や同僚の前で意見を言えない風潮の会社なのだろうな、と思ってしまいます。
村上:このアンテナが一番立ちやすい、つまり、出現確率が高いと思います。
会社よりも自分をアピールする「自意識系」
朝倉:さて、最後は「自意識系妖気アンテナ」、事業、会社、プロダクトより、自分の評判や見られ方に意識が向いてしまっている経営者に対して反応するアンテナです。例えば、会社説明資料や営業資料に、自分の表彰歴や雑誌掲載例が満載されている例だと、少々警戒心が働きます。
村上:「自意識系」については対面のミーティングだけではなく、フェイスブックなどSNSのポストやメディアへの出方、つまり対面していないときの雰囲気でも違和感を覚えることがあります。「プライド系」「隠蔽体質系」「パワハラ系」の3つは対面して気付くことが多いのですが、「自意識系」はそれ以外の機会で感知しやすい。
小林:まさに、SNSでは声高に自分の意見を主張するのに対して、会社の戦略説明が弱くて、経営者としての資質に疑問を感じることもありますよね。
村上:会社が取り組んでいることより自分をアピールしたいう気持ちの方が強く出ていると、「自意識系」の懸念が湧きますね。
「直感」は案外正しい
朝倉:4つの分類、「プライド系」「隠蔽体質系」「パワハラ系」「自意識系」について分かりやすく、やや戯画的に、特徴を形容してきましたが、多くの場合、ここまで極端に表に出てくることはないと思います。
しかし、相手とのコミュニケーションを通じて微かな違和感を抱くことがあって、それを経験則と照らし合わせ、何かしらのリスクを感じ取ることは、我々に限らず、誰もがあるのではないでしょうか。
村上:「妖気アンテナ」が立つ時というのは、瞬時にここまで言語化できるものではありませんよね。ですが、ミーティングを終えた帰りにでも、その場に居合わせた人同士でアンテナが立ったかどうかを確認することはあります。
朝倉:そうですね。我々の場合も、「さっき、何かおかしかったよね?」「そうそう、おかしかったと思う」と話し合ってみると、みんなが同じ印象を持っていることが多い。その違和感はなんだったのか、を突き詰めて言語化していくと、今日話したような特性に辿り着くのですが、普段はそこまで顕在的ではなく、印象程度のものです。
人間というものは、とかく第一印象に左右されがちです。そういう意味で言えば、「妖気アンテナが立つ」というのは、ある種のバイアスなのかもしれません。印象だけで決めつけることはありませんし、多少の違和感に流されることなく、相手のことをしっかり深堀りしてみる必要はあります。
とはいえ、これらのアンテナが立つことによって、なんらかのリスクを検知しているのも確かであり、今後も注意を払うべきだと思います。
村上:これら4つの特徴は、経営者の資質としては、どれもクリティカルな問題ですからね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 編集:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/7/26に掲載した内容です。