デジタル化加速から考える企業変革
トップのリーダーシップだけで十分か
コロナ禍を契機に、企業や政府でデジタル化の機運が高まっている。デジタル化はコロナ前にも取り組まれていたが、実証実験や個別業務の改善にとどまりがちだった。しかし足元では、媒体は紙からサイトへ、働く場所はオフィスから自宅(在宅)へ、販売場所は実店舗からオンラインへと、全国規模で変化が加速している。政府は、デジタル化政策のターゲットとしてハンコを選んだ。行革担当大臣は、省内での押印廃止を標語として掲げた。
会社経営において、このような変革期には、「トップのリーダーシップ」だけに焦点が当たりやすい。トップのリーダーシップによる一方的な改革は、分かりやすく、胸のすく思いを与えることが多い。経済ジャーナリズムや企業小説でも、この手の改革話は人々に受け入れられやすい。
しかし、トップによる変革の働きかけは、変革の対象となった組織・共同体がトップの呼びかけに呼応するという相互作用があって、初めて効果を生む。勧善懲悪的なトップによる片務的な構造改革は、長期的に見ると組織内に怨嗟を生むなどして、改革の継続性が失われる。
たとえば、行革担当大臣によって悪者とされたハンコについて考えてみよう。印章業者からは、「ハンコを悪者にするのは不公平だ」という反発が生まれた。一方でネットでは、「印章業者の反発はデジタル化の遅延原因」と指摘する声が挙がった。
ただ、感情論を横に置き、冷静に印章業者団体の主張を読んでみよう。彼らは、行政のデジタル化に反対しているだけでなく、印章文化の継承や海外向けの需要開拓の支援を求める代替策も提言している。印章業者団体の主張は、行政と業者との間で合理的な利害調整の余地があるとさえ読める。