余暇時間を使って、前職の仕事に励む

 翌日、AのメールにB社長から機械操作マニュアル作成の依頼があった。結構複雑な内容だったが、Aは昔取ったきねづかで会社のノートPCを使ってサクサクと仕事を進め、1週間後B社長に納品した。チェックを終えたB社長は、

「さすがはA君!完璧な仕上げだよ。何ならもっと仕事やらない?超特急納品で頼みたい案件があるんだ。ギャラは今回の2倍でどう?」

 と大喜びで次の仕事を依頼した。

「マジですか?社長ぜひお願いします!」

 その後もAは余暇時間を使ってライター稼業に励んでいた。本来、副業をする場合は会社に許可をもらうことになっているが、テレワーク中なのをいいことにすっかり忘れていた。B社長から依頼される仕事はどんどん増え、1月に入ると平日の夜や休日を全部充ててもこなしきれないほどの量になっていた。

 Aはここで断ればよかったのだが、「どうせ本業はヒマだし、お金は欲しいし」と、つい引き受けてしまい、やがて勤務時間中にまでライターの仕事をするようになった。そして、副業のギャラで金回りが良くなったAはすっかり有頂天になり、あるときオンラインで一緒に飲んでいた元同僚のCに、勤務時間中に会社のPCを使って副業をしてもうけていること、B社長に「もう一度ウチの会社で働かないか?」と強く打診されていることを話してしまった。

本業がおろそかになり、ついに上司が異変に気づく

「一体何をやっているんだ、Aは!」

 1月の下旬、D課長は電話を切ると大声で叫んだ。

 「課長、どうしたんですか?」

 隣席にいたEは、D課長の様子に驚き、作業の手を止めて尋ねた。

「またAが担当している顧客から『商品注文の問い合わせをしても返事がない』とのクレームだ。もう今月で苦情は7件目だぞ!」

 ライターの仕事で忙しくなったAは、本来やるべき業務である顧客へのフォローができない状態に陥ってしまい、顧客から会社に苦情が寄せられるようになっていたのだ。D課長はAにメールで2回ほど軽く注意をしたのだが改善されず、D課長自らがフォローしてその場をしのぐ事態になっていた。

 Eはシラっとした口調で答えた。

「A君はきっと副業で忙しいんですよ」
「副業だと?」
「C君から聞いたんですが、A君は前勤めていた会社の依頼で、勤務時間中に会社のPCを使ってライターの副業をしているそうですよ」

 D課長は頭に血が上った。

「仕事中にアルバイトだと?ふざけるな!俺はAのせいでお客さんに怒鳴られた上に、尻ぬぐいまでさせられてるんだぞ。もうアイツはクビだ!」