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コロナショックで確信した
自分たちの存在意義
新型コロナウイルスによって大きく変化した人々の意識やライフスタイルについて、小売業の最前線を担う立場から、どのようにご覧になっていますか。
人間とは本来、心地よく暮らしたい性分だと思います。しかしこれまでは、通勤で満員電車に乗らねばならなかったり、深夜残業が続いたりと、自分を犠牲にするライフスタイルが求められる場面が多くありました。ですが今回のコロナショックで、自分の働き方や生き方をあらためて見つめ直そうという流れが生まれています。たとえば料理です。在宅勤務が普及したことで自炊をする人が増え、家でゆっくりと食事を楽しむ時間が取れるようになりました。おかげでベイシアを含め、多くの食品スーパーの売上げが伸びました。
こうした流れは、カインズなどのホームセンターにも波及しており、特にDIY分野で顕著です。心地よい暮らしを求めて、住環境を改善しようという人が増えているのです。そこには、私たちが「DIYの拡大解釈」と呼ぶ現象も起きています。たとえば燻製をつくったり梅酒を仕込んだりするのも、ある意味でDIYの一種です。私たちは、何かひと工夫を加えることで毎日の生活を楽しむことすべてをDIYと定義しています。こうしたDIY文化を含めた心地よい暮らし、つまりウェルビーイングの追求が、今後の大きなトレンドになっていくのではないでしょうか。
カインズはこのコロナ禍においても、存在意義を際立たせる施策を打ってきました。注目すべき点を挙げるならば次の2つです。①緊急事態宣言下の休業要請において、安全対策を踏まえたうえで店舗のオープンを決断したこと。②スマートフォンでネット注文し、店頭のロッカーなどで商品を受け取るというクリック・アンド・コレクト型の新サービス「CAINZ PickUp」を、予定を大幅に繰り上げて2020年4月から全店に導入したこと。まず①について、その意味と狙いを聞かせてください。
緊急事態宣言当初、ホームセンターは休業対象業種に入っていました。最終的にその対象から外れましたが、仮にそうだったとしても、それを押してでも営業すべきだと心に決めていました。なぜなら、ホームセンターには日常生活を支える地域のインフラとしての役割があるからです。
それは2011年3月11日の東日本大震災でも、2019年に相次いだ台風による豪雨災害の時でもそうでした。電池やガスボンベ、ブルーシートなど、有事に不可欠な商品をホームセンターは数多く扱っています。それらを可能な限り早くお客様に届けること、地域の生活を守ることが我々の使命であり、存在意義でもあるのです。
感染症の場合、台風や地震と違って、目に見えないウイルスとの戦いです。ですから、お客様はもちろんのこと、従業員の安心・安全をいかに守るかが大きな課題でもありました。そのことを踏まえて時間をかけて議論したのは、「エッセンシャルとは何か」ということでした。医療やインフラなどのライフラインだけではない、我々ホームセンターも地域の生活を守るために不可欠な存在である。そのことをあらためて確信しました。
こうした思いが従業員たちにも伝わり、緊急事態宣言下にあっても店舗営業を続けることができました。もちろんそのために、さまざまな感染防止対策を講じたのは言うまでもありません。
②のCAINZ PickUpも、お客様と従業員の安心・安全を守るうえで必要な施策だった。
その通りです。ただし、これはコロナ禍に対応するために開発したサービスではなく、お客様のさらなる利便性を向上させるアプリケーションとして、以前から開発を進めていたものです。そこにコロナ禍がやってきたため、予定より大幅に前倒しして導入しました。
迅速に導入できたのは、2020年1月に実装していた店員向けの業務用アプリ「Find in CAINZ」の存在が大きかったのでは。
おっしゃる通り、すでに全店舗に実装していたので、新たに導入したCAINZ PickUpともスムーズに連携し、業務効率を大幅に上げることができました。
そもそもFind in CAINZは、お客様と従業員の困り事を解消するために開発されたアプリで、これを使えば、膨大な種類に及ぶ個々の商品がどの棚のどこに陳列されているのか、店員が携行しているタブレット端末に商品画像と合わせてマップが表示されます。また、在庫状況も即座に検索でき、棚割りデータの更新にしてもバーコードを読み取るだけで瞬時に書き換えることが可能です。
カインズは、平均売り場面積が約7300平方メートルと大型店舗が中心のため、取扱商品は数万点に及びます。それゆえ、お客様がほしい商品になかなかたどり着くことができず、従業員に聞かざるをえないという状況でした。当社の調査では、接客の7~8割が売り場案内だったという結果もありました。お客様とほしい商品をいち早くつなげるFind in CAINZによって、従業員の生産性も大きく向上することにもなりました。
いま多くの企業でDXが叫ばれていますが、こうした変革プロジェクトでもその会社らしさが重要である、と私は考えています。その意味でもFind in CAINZやCAINZ PickUpは、カインズらしさであふれています。なぜなら、これらのシステムの根底にも、我々が最も大切にしている「お客様へのKindness」がしっかりと浸透しているからです。