株式投資に熱中し始めた
韓国の個人投資家

 多くの投資家が過度に楽観的な見方へと偏ると、時に株価は、理屈では正当化できない水準にまで上昇することがある。その結果、株式への投機の増加によって、特定の銘柄の価格急上昇など、金融市場がひずむことがある。

 ただ、そうした状況は永久に続くことはなく、どこかのタイミングで株価などには調整圧力がかかる。すると、大きく下落することにもなりかねない。そのような展開になると、経済全体と金融システムに大きな下押し圧力がかかることが懸念される。

 2020年春先以降、コロナショックの発生によって各国の中央銀行は金融緩和を強化し、世界的な「カネ余り」環境(過剰流動性)が出現した。コロナショックは世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させ、先行きへの楽観、あるいは成長への期待が株式市場に広がった。

 韓国では、半導体やスマートフォン市場で競争力の高いサムスン電子などへの業績期待が高まり、20年3月中旬に株価は底を打ち、上昇基調が鮮明化した。その後、11月上旬から12月末にかけてはワクチンへの期待が高まり、外国人投資家は「アフターコロナ」の展開を先取りして韓国株を買い上げた。

 2021年年明け以降の韓国株式市場は個人の買いに支えられ、韓国総合株価指数(KOSPI)は初めて3000ポイントを突破。21年1月下旬には、外国人投資家が利益確定のために韓国株を売った。そのタイミングで米国ではゲームストップ(米国のゲームソフト小売大手チェーン)株などをめぐる、個人投資家とヘッジファンド(機関投資家)のマネーゲームが起きた。

 韓国では外国人が売った銘柄を、個人が買い向かっている。株式投資に熱中する個人は多いようだ。カネ余りと成長への過度な楽観を根底に、個人投資家は「株価は自分たちの意図のままにコントロールできる」と、「コントロール・イリュージョン」の心理を強めているようにみえる。

 それに加えて韓国では、不動産価格の高騰や、雇用環境の厳しさが続く中での生活を少しでも楽にするため、株式投資によって利得を手に入れたいと考える個人も多いだろう。

「空売り禁止の延長を求める広報バスが、音楽隊(バンド)のようなにぎやかな雰囲気を醸し出し、個人投資家はそれにつられるようにして相場に参戦している」と在ソウルのファンドマネジャーは指摘していた。それは、行動経済学でいうところの「バンドワゴン効果」の良い例といえる。

文政権が空売り禁止を延期
その理由とは?

 韓国金融委員会(FSC)は、2020年3月に導入した株式の空売り禁止措置を2021年3月15日に解除する方針だった。しかし文政権がその方針とは逆に、5月2日まで延長することを決めた。その背景には複数の要因がある。

 まず、閣僚の交代などによって文氏の支持率には持ち直しの兆しが出ている。文氏としては、株価の上昇を勢いづかせる状況を整備することによって、世論の支持を確保したいだろう。4月にはソウル市と釜山市の市長補欠選挙が予定されている。その結果は、次期大統領選挙に大きく影響するはずだ。文氏だけでなく韓国の政界全体にとって、株価の上昇が続き、世論にある種の楽観が生まれる状況は重要なのである。

 次に、文政権は「韓国版ニューディール政策」の推進のために、「韓国版ニューディールファンド」を設定した。ファンドには損失補填が付けられている。株式の空売り禁止措置の延長は、株価を支え、ファンドの収益を押し上げる要因になり得る。そうした展開が現実のものとなれば、文氏は一時的にでも庶民に「経済的なベネフィットをもたらした」と成果を示すことができるだろう。

 他方、韓国政府および政治家にとって、個人投資家の強気心理を落ち着かせるのは難しい。個人投資家の要求に為政者が迎合し始めると、株式市場における先行きへの楽観や、強気な心理はさらに膨らむ。それによって一時的に社会心理は高揚し、為政者への支持率にも変化がもたらされるだろう。株式売却に関する規制などの強化は、自らの政権基盤の安定化につながる可能性が大きいのである。