創業130年の歴史を誇るクボタが、積極的なイノベーションで、「グローバルメジャーブランド」へと着実に歩を進めている。現在、タイをはじめとしたASEAN諸国では、農機分野で圧倒的なシェアを獲得するなど、世界120カ国以上で事業を展開している。

 事業の約8割を占める機械部門を柱に、水・環境ビジネスを含めた海外売上高比率は、売上高1兆9200億円(2019年12月期)の約7割。農機メーカーでは、アメリカのディア・アンド・カンパニー、オランダのCNHインダストリアルに次ぐ世界第3位である。

 こうしたグローバルメジャーブランドの一角を占めるクボタ。その成長戦略のカギを握るのが、国内外の企業への出資や協業、オープンイノベーションによるスマート農業である。2014年には、最先端技術とICTを融合させた営農支援システム「クボタスマートアグリシステム」(KSAS)を発表。IoTを駆使して収集したデータで農業を見える化し、経験や勘に頼らない効率的なスマート農業の実現を目指す。また19年には、日本とオランダに「イノベーションセンター」を開設し、オープンイノベーションに取り組む。

 クボタはどのような農業の未来を構想し、単なる機器の販売に留まらず、ソリューション開発やイノベーションなど、どのようなバリュープロポジションを提供していくのか。イノベーションセンターの初代所長であり、変革を牽引する北尾裕一社長に聞く。

小型・中型農機で
ASEANでの成長を牽引

編集部(以下青文字):経営の中長期目標として「グローバルメジャーブランド」を掲げ、2019年度の海外売上高は1兆2947億円に達しています。

「スマート農業」でアグリプラットフォーマー目指すクボタ 代表取締役社長 北尾裕一YUICHI KITAO 1956年兵庫県生まれ。1979年、東京大学工学部船舶工学科卒業後、久保田鉄工(現クボタ)入社。2005年トラクタ技術部長、2011年アメリカ販売子会社クボタトラクターコーポレーション社長、2013年常務執行役員、2015年機械ドメイン担当の取締役専務執行役員、2019年代表取締役副社長執行役員などを歴任。2019年6月にオープンイノベーションで新事業、製品やサービスを創出するイノベーションセンターの初代所長。2020年1月より現職。

北尾(以下略):ビジネスの大きな柱は、全体の約8割の売上げを誇る機械部門です。なかでも農機と部品やインプルメント(作業機)などの関連商品では、タイをはじめとしたASEAN諸国で大きな市場シェアを獲得しており、機械部門の約8割を海外での売上げが占めています。

 我々の場合、小型・中型農機が強みです。たとえばアジアでは、主に日本の現場で磨き上げた稲作用農機がコメ生産国で高く評価され、トラクターやコンバインで高いシェアを獲得しています。

 また欧米では、果樹栽培や酪農などの小・中規模農家で使われる牧草刈り取り機、住宅の建設現場などで使われるミニ建機の売上げが伸びています。とりわけアメリカでは、草刈りやガーデニングに使う40馬力以下の小型トラクターでトップシェアを握っています。

 海外事業にはまだまだ伸びしろがあると見ています。タイにおける稲作の機械化はほぼ100%に達していますが、インドネシアなどの他のASEAN諸国では機械化の進んでいない地域が少なくなく、伸長の余地は十分にあります。トラクター、コンバイン、田植機といった稲作以外の領域、たとえばサトウキビなどの畑作でも機械化は遅れており、ここにも成長の可能性があります。

 インドとアメリカはいずれも有望市場でありながら、クボタは後発です。ですから、インドの農機市場は80万台近い規模といわれていますが、クボタのシェアはまだ1%程度です。またアメリカでは、大型農機の分野においてディア・アンド・カンパニーの後塵を拝しています。今後、どのような戦略で差別化していきますか。

 インドは、参入してから十余年ほど経ちますが、トラクターが多目的型でなければ売れないという市場特性があります。つまり、3割は農業に使うけれども、7割はトラクターの後ろにトレーラーをつけて物資を運搬するといった使い方がインド流なのです。それゆえ、クボタの主力製品ラインでは牽引力が足りず、こうした過酷な使われ方に耐えられませんでした。そこで2015年、重量を増し、牽引力を高めた多目的型のトラクターを開発し投入しました。

 ただし、現地の農機メーカーと戦える低価格帯の製品を投入するには至っておらず、シェアは2%にまだ届きません。ですが、勝負はこれからです。2019年、現地の大手農機メーカーのエスコーツと合弁会社を設立し、彼らの低コストの部品調達ネットワークを活用し始めました。

 インドには、倹約・低コストの製品を設計開発する「フルーガル(節約)・エンジニアリング」という文化があります。我々が提供している高品質で使い勝手のよい製品にフルーガル・エンジニアリングを足し合わせて、現地メーカーとの差別化を図りつつ、インド市場でのシェア拡大を狙っています。

 アメリカでは、それなりのシェアを獲得している小型農機だけでなく、100~250馬力の中型農機市場にも参入しました。まず2015年に170馬力クラスのM7をフランスにある自社工場で生産を開始し、2019年には北米で実績があるビューラー・インダストリーズをパートナーに迎え、M8という210馬力のトラクターを開発・生産しています。

 アイオワ州、ウィスコンシン州、ネバダ州などのアメリカ中西部には大穀倉地帯があり、そこでは大型トラクターが使われていますが、牧草を刈ったり収穫したりする作業には、中型のM8でも十分対応可能です。ですから、着実に投入していけば、早晩トップシェアを取れると考えています。また、さらに大型のトラクターの開発・生産も段階的に検討していくつもりです。

 実はトラクターとともに重要なのが、トラクターの後部に装着するインプルメントです。たとえば、土の掘り起こし、肥料の散布、農作物の刈り取りなど、さまざまな用途のインプルメントがあります。トラクターとインプルメントのベストマッチングを探ることで、より機能性を高めることができますし、農機とセットで販売していくことで収益性も高まります。

 そこで、インプルメントを製造するノルウェーのクバンランドを2012年に、アメリカのグレートプレーンズ・マニュファクチュアリングを16年に買収し、ヨーロッパと北米での市場シェア拡大に向けてアクセルを踏んでいるところです。