オレンジの悪魔が自分たちで工夫した練習の数々
一方で、部員たちは音と動きの両立に近づこうと、涙ぐましい努力をしました。上半身を揺らさずに踊るために行き着いたのが、体幹トレーニングです。
どんなトレーニングかといえば、片足をハイステップの形に90度曲げ、片足立ちでバランスをとりながら、3分程度の曲を吹くというもの。立っているだけでグラグラし、息が苦しくなってくる姿勢のまま、3分も演奏するのですから、かなりの荒技です。ジャージ姿で顔中から汗を滴らせ、髪の毛までぐっしょり濡れている姿は、楽器さえなかったら運動部のようです。
新入生は楽器を持たずに両手を真ん中で合わせ、演奏の代わりに「1、2、3、4」と大声を出しながらゆっくり片足立ちのバランスをとりますが、それでも慣れるまでは苦労します。大声を出すのは気合いを入れるためではなく、吹奏楽に欠かせないブレスの量を増やすため。音を大きく美しく響かせるには、たっぷりしたブレスが不可欠で、体幹を鍛えることには相乗効果も期待できます。
この片足立ちはテレビでも放送されて有名になりました。ちなみに、関東の強豪校と合同練習をした際、一緒にこのトレーニングをしたところ、そちらの生徒たちはついてこられませんでした。それほどの過酷さなのです。
京都橘はこの頃も現在も、吹奏楽コンクールとマーチングコンテストの両方に出場しています。とはいえ座奏の練習は、夏の吹奏楽コンクール直前、わずか3週間だけです。しかもその際も、毎朝の「マーチングの基礎練習」は絶対に欠かしません。大きな音を出すために、長く音を出す「ロングトーン」の練習を30分間。それに加えて前述の片足立ち。このセットが体幹とブレスを鍛える京都橘の基礎練習です。
なぜそうするかというと、京都橘には「パレードに参加してほしい」「イベントでドリル演奏をしてほしい」という要望がたくさん来ます。私がプロデュースして意図的にそういう場を増やしていたからなのですが、「いつでもマーチングができるようにスタンバイ!」というのが、オレンジの悪魔たちのプライドになっているからです。