「オレンジの悪魔らしさ」が壁を崩した

 2007年に吹奏楽連盟が行った大改革「パレードコンテストの部とフェスティバルの部の統合」は、京都橘にとっては追い風になりました。

 長年、積み重ねてきた真面目でひたむきな練習によって、しっかりとした基礎ができていたので、横山先生も私も「橘は規定演技に向いている」との思いがありました。

 さらに「華美な衣装は禁止。ジャージ出場も多い」というパレードの部と合体したのなら、DCIスタイルのゴージャスさよりも、カレッジスタイルの清潔な明るさのほうが評価されやすいでしょう。橘スマイルの見せどころです。

 何よりも、自分の頭で考えて行動するオレンジの悪魔たちの分析力はたいしたもので、次々と「新技」を生み出して練習に取り組むはずです。そして、その予想は見事に的中しました。

 2007年9月の関西大会当日、舞台は大阪市中央体育館。演技冒頭のコラールはスコットランド民謡の「アニーローリー」。規定演技に用いたのはフィリップ・スパークの「バンドワゴン」。クイックマーチを用い、規定演技消化の中にも“らしさ”が大いに出ました。まるで何年もパレードコンテストの部に出ていたかのような巧みな仕上がりに、オレンジの悪魔たちのボルテージも上がっていきます。

 そして後半のショータイムは、もちろん「シング・シング・シング」です。

 特徴であるイントロのドラムソロが「ドンドンズドドン!」と鳴り出し、そこに重なるスーザフォンとトロンボーン。全員がジャンプしながら踊り出したとたん、客席からは拍手の渦。

「来たーっ!」という歓声がどっとあふれ、肉体的には過酷な演技にもかかわらず、オレンジの悪魔たちは自然に笑顔になります。会場の期待と応援に後押しされて、渾身のパフォーマンスで、京都橘はついに全国大会出場権を手にしました

 ついに壁が崩れた。いや、部員たちが突き破ったのです。