日本政府の対応は緩いしメディアの危機意識も弱い

 このように考えると、中国の一連の行動に対する日本政府の対応は緩いし危機感が乏しいと言わざるを得ません。その筆頭は、外務省の弱腰すぎる対中外交スタンスです。

 そもそも、尖閣諸島周辺で中国の公船や漁船が好き勝手に活動するのは、2000年に発効した日中漁業協定で、尖閣諸島が含まれる北緯27度以南の日本の排他的経済水域では、相手国の漁船に対して自国の漁業関係法令は適用されないとしたからです。

 そして、今回の海警法の制定・施行に関しても、茂木外務大臣は1月下旬の記者会見で「国際法に反する形で適用されることがあってはならない」と一般論を述べただけです。2月頭に開催された日中実務者協議でも「国際法と整合性のとれた運用が必要」と主張しただけです。海警法は明らかに国際法違反なのに、それを明確に言わなかったのです(もちろん、国際法と国内法のどちらが優越するかは国によって異なるので、それを主張するのがどこまで意味があるかは別ですが)。

 ちなみに、フィリピンは海警法に対して、“武力行使は国際法の下で禁止されている”と国際法違反であることを批判し、いかなる国も南シナ海の状況を悪化させないよう警告しています。ベトナムも、“関係国がベトナムの主権を尊重し、緊張を高める行動を行わないよう求める”という声明を出しています。

 もちろん、問題は外務省だけにとどまりません。詳細を書き出したらキリがないので省略しますが、領海などに関する法制上の不備もありますし、海上保安庁の権限や体制の見直しも早急に必要なはずです。さらには、万が一の有事の際の政府の対応の体制が大丈夫かという問題もあります。東日本大震災への対応もコロナへの対応も、法制上は平時の延長で対応することになっているため、後手後手になってしまいましたが、それを繰り返したら最悪です。

 米国のバイデン政権が“尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象”と明言したのは心強い限りです。また、英国・ドイツ・フランスも太平洋に軍艦を派遣する意思を明示したのも、対中国の包囲網という観点から安心材料です。

 ただ、それだけで満足してはいけません。今年と来年が中国にとって重要な年であるからこそ、政府は万が一の最悪の事態も想定し、少なくとも必要な対応の検討を進めるべきではないでしょうか。

 そして、メディアも、海警法に関して断片的に小さく報道するだけでなく、海や空を巡る中国の動きについて、そして日本政府の対応の不十分さや必要な対応などについて、詳細にかつ分かりやすく国民に伝えるようにすべきではないでしょうか。

 コロナの次のリスク要因は、ある意味でコロナ以上に手強いかもしれないことを、そろそろ意識し始めるべきではないかと思います。

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)