人材価値と待遇を
つり合わせる

 これは、夢の実現という名のもとに、労働者を搾取しているようなものだ。人材の価値から、夢ややりがいを持っている分を削減しているようなものだ。許されることではない。むしろ、夢ややりがいを持っている分、パフォーマンスの期待値は上がるわけで、待遇を加算すべきなのだ。

 人材の価値が、待遇とつり合っていないと、他ならぬ本人自身が感じたら、その状況を是正すればよい。社内で昇格や昇給を目指せばよい。社内で昇格や昇給が望めなければ、社外への転職を考えればよい。

 経営者は、これに対して、夢ややりがいがあるのだから、限られた待遇で我慢しろと、辛抱を強いてはならない。人材の価値が満たない部分があるならば、それを社員に説明しなければならない。

 加えて、最もやってはならないことは、待遇に対する不満を言ってきた社員や、転職をほのめかしてきた社員に対して、秘密裏に待遇改善をしてしまうことだ。これも人材の価値と待遇を等価に扱っているイニシアティブとは言えない。

 不満を表明すれば、その対処のために、待遇改善しているようなもので、そこには人材の価値との照合がないからだ。人材の価値に応じて待遇を決めているのではなく、不満のあるなし、転職希望のあるなしで待遇を決めているようなものだ。これでは、不満や転職を表明しない社員に対して、不公平だ。

 不満の表明があろうがなかろうが、人材の価値が見合っていれば、その水準の他の人と同等の処遇をする、見合っていなければ、見合っていないと説明すればよいだけのことだ。

能力発揮状況を
印象論で語ることに留まるな

 人材価値と待遇を等価につり合わせるためには、人材価値の測定が必要だ。業績数値は測定がしやすい。しかし、能力発揮状況は、「この人はやる気がある」「あの人は積極的だ」ととかく印象論で語られやすい。印象論で語られている限りは、人によって見方が異なり、本人への説得力が高まらない。

 私が実施している能力開発プログラムでは、演習シートに記入しながらロープレなどの演習のみを実施している。記入した演習シートの内容からスキルレベルや正確性や理解力の数値化ができる。

 演習時の発言の順番から能動性や迅速性が、計画した順番と実際の順番との差異から計画実行力が数値化できる。とかく印象論で語られやすいこれらの能力発揮状況を数値で表すことは、人材価値と待遇を一致させるために有効だ。

 そして、自身の能力発揮状況を最も正確にわかっているのは、他ならぬ自分自身なのだ。菅野氏は、移籍断念後の記者会見で、「ポスティングという形で行くのなら、どんな条件でも行けという意見もありますが、それはその人の見解」「判断するのは僕であって、僕の人生なので」と語っているが、全く同感だ。自分の価値に見合ったフィールドを、他ならぬ自分で選択することこそ、自己実現につながる。