菅野投手Photo:Harry How/gettyimages

プロ野球の菅野智之投手のメジャーリーグ移籍断念に対して、「夢を実現しようとするのであれば待遇は二の次である」という見解がはびこっている。これは危険な思想だと言わざるを得ない。夢の実現という名のもとに労働者を搾取する考え方と同質の問題だからだ。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)

夢の実現のためには
待遇は二の次なのか

 プロ野球の読売ジャイアンツの投手・菅野智之氏が、ポスティングによるメジャーリーグ移籍を断念した。これに対して、いずれの国内外球団とも契約できる海外フリーエージェントではなく、日本の所属球団が特別に認めた上でメジャーリーグ球団と移籍交渉できるポスティングのお膳立てがされたのだから、どのような条件でも移籍すべきだという声あがった。

 同じくポスティングにより、前田健太氏が広島カープ時代と同程度の年俸でトレード拒否権もないなど、不利な条件でロサンゼルス・ドジャースへ移籍したケースや、大谷翔平氏が日本ハムファイターズ時代から大幅減の、それもメジャーリーグ最低保証年俸程度のマイナー契約で、ロサンゼルス・エンゼルスへ移籍したケースが引き合いに出され、「夢を実現しようとするのであれば、待遇は二の次である」という論調が展開された。

 この論調、私には、とても危険な思想であると思えてならない。企業においても、この思想がはびこっている。

 中途採用をするにあたって、「転職先で働くことに夢を見出せるのであれば、低い条件提示でもサインするはすだ」「やりがいを感じるなら給与を下げてでも転職するべきだ」と考えている経営者がいる。

「自ら進んで、やりがいを感じて残業しているのだから、残業代を支払う必要はないのではないか」「自分の夢の実現のために土日出勤しているのだから、これは自己啓発であり業務ではない」という間違った考え方は、「夢を実現しようとするのであれば、待遇は二の次である」という思想と同じだ。