なぜ、母のストレスは、息子より娘に向けられやすいのか

 母親にとって、異性である息子より、同性である娘は自分に同一化しやすく、常時話さなくても自分の思いは通じているはず、そして自分も娘のことはわかっている、と思い込みやすい存在だ。

 そして、ストレスや不安が高じてくると、母親はなおさら、娘だけは私の味方、娘は私を理解してくれている、と思い込む対象となりやすい。

 また、同性であることから、娘に対してはこれくらいしても大丈夫、これくらい言っても平気、なぜなら自分も同じ女性であり、かつては同じ娘の立場であったのだからすべてわかっているから大丈夫、という安心感を持ちやすい。

 そのため母親は、愚痴を聞かせたり、感情が不安定なときはつらく当たってみたり、自分は今、大変なのだから、これくらいわかってくれて当然だとばかりに厳しく接したりすることが多くなりやすく、娘のほうが母親が抱える不安やストレスに直面させられやすい存在となってしまうのだ。

 現に、N美さんの母親も、弟には一度も手を上げたことがなく、きわめて甘かったという。

 そして、同性である娘は、母にとって嫉妬の対象ともなりやすい。

 自分は親に我慢を強いられてきたという思いの強い母親の場合、だから娘だけが自由な道を進むのは許せない、自分が我慢してきたのだから娘も我慢すべきだ、娘が自分を超えてその先に行くことが受け入れられない、という無意識の感情から、娘の人生を閉ざすように行動してしまうということもあるのだ。

母親との距離をとる、という選択肢

 それからしばらくして、N美さんは青ざめた顔でカウンセリングルームに入ってきて、「もう死にたくなっちゃいました」と言った。